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第14話

  ★ ★  二階は事務所で、キッチンもついている。詩雨はそこでお茶の支度をしていた。  自分にはフレーバーティー。季節限定の薩摩芋と栗のフレーバー。薩摩芋の味が強く、甘みがある。 遥人にはコーヒー。何杯か一度に作れる、ドリップ式のコーヒーメーカー。  コーヒーを作っている間に箱を開け、ケーキを皿に載せる。 「わ。パンプンキンケーキだな、たぶん」  しっとり感のある黄色いスポンジのケーキだった。  用意を整えると三階の自宅へ。  階段を上り切った踊り場に、靴箱と靴を脱ぐスペースがある。詩雨はそこで靴を脱いで居住スペースへ上がる。左右に部屋があり、左がゲストルーム、右がふたりの居室だ。  遥人が先に戻って来ているのか、部屋のドアは開きっ放しになっている。両手が塞がっている詩雨にとってはそれは好都合で、恐らく遥人がそう考えて開けたままにしたのだろう。  部屋に入ると、遥人はローテーブルの前に座っていた。既にラフな服に着替えて、髪も軽く乱していた。 「片づけありがとう」  詩雨はケーキと飲み物をそれぞれに並べると、楕円形のテーブルの短い面に座った。長い面に座っている遥人とは少しだけ間が空いている。 「こちらこそ、コーヒーありがとう」 「このケーキ美味しそうだなぁ。パンプキン?」  しっとり感のある黄色いスポンジに、少し緩めの生クリームが被っている。その上には、ジャック・オー・ランタンやおばけを象った小さめで薄いチョコが幾つかと、皮を剥いた緑色のカボチャの種が載っている。 「そうです。パーティーに出されていて、お持ち帰り用にして貰いました。詩雨さん、好きでしょ?」  詩雨の嬉しそうな顔をにこにこしながら、遥人が見ていた。 「気持ち悪いよな。可愛い女のコならともかく、いい歳した男がさ」  やや唇を尖らせ気味にして拗ねたように言う。  ──歳を重ねてもなお白く滑らかな肌。  眼力のあるブルーグレイの瞳。  何もつけていないのに紅みのある唇。  口許のほくろ。  時には、陽に透けて輝くライトブラウンの髪──。  誰が見ても美しい──そう遥人は思っている。  でも何故か自己肯定感が低すぎる詩雨。子どもの頃周りにあれこれ言われてきたことが、起因しているのか。 「何言ってるんです。可愛いに決まってるじゃないですか」  そこは笑って流して欲しかったが、真顔でそう言われ、ぽっと頬を染める。 「いただきます。遥人も食べな」  照れて視線を反らし、話をぶち切った。 「あ、待って。詩雨さん」  フォークを手に持ったところで、待ったがかかる。 「え?」 「ちょっと、眼、瞑っててください」 「?」  何だろうと思いながらも、詩雨は素直に眼を閉じた。

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