15 / 19
第15話
小さい物音がしたかと思うと、何か頭に装着される。
「んん??」
何だか覚えのある……。
そう感じて、いいよと言われる前にぱっと眼を開ける。
──眼の前で、ケモミミの男がにっこり笑っていた。
そして、勿論自分の頭にもついているのを、手で触って確認した。手触りから、例の黒猫の耳だと分かる。
「今日の服に合ってますよ」
大きく襟ぐりの空いた、ふんわり感のある五分袖の黒いセーターを、詩雨は着ていた。
「遥人……おまえ……いつのまに」
どおりで自分だけ先に行かせたはずだと、納得する。
「あ、そうだ。詩雨さん、忘れ物。机の上にありましたよ」
眼の前にぶら下げたのは、青いリボン。
あ……と言って詩雨が受け取ろうとすると、遠ざける。そして、するっと彼の首に巻き付けリボン結びをした。
「可愛いですよ。首輪みたいで」
「んぐぐ。可愛くない」
口をへの字に曲げる。
「いいじゃないですか。ハロウィンだし。ハッピーハロウィン」
語尾にハートマークがついてそうだ。まったく憎めない。
「ま……いいか」
と諦めた感を出して言うが。
(オレも、遥人のケモミミは、はっきり言ってめちゃ好みだし! しかも、この間は黒かった髪が、今日はアッシュブラウン! この狼の耳の色といっしょじゃ〜んっっ)
かなりテンション上がっていたことは、けして知られてはならない。
「ハッピーハロウィン。ケーキ食べよ」
詩雨は、再びケーキと向き合った。大事そうにフォークで小さく一口分つつき、口の中に入れて咀嚼する。
(かわいすぎる……)
拗ねて唇を尖らせた顔も、もぐもぐ動く口も、何やら良からぬことを考えている表情も。
遥人にはすべてが可愛かった。
本人は自分のことを『オッサン』と言い、幾ら遥人が可愛いだの綺麗だの言っても、けして認めない。
そういった好意のある眼で見られていてもまったく気づかず、よそ見をすることもない。その辺は大変助かる。
遥人は、可愛い詩雨を見ることができるのは、自分だけでいいと思っていた。
★ ★
二口目を食べ終えてから、遥人の方を見る。それから、テーブルの上のケーキ。何も減っていなかった。
「ケーキ食べなよ」
「俺、甘いものは……」
「あ、そうだった」
浮かれすぎて忘れていた。遥人は食べれなくはないが、甘い物は苦手だった。
(じゃ、なんで二つ? 全部オレの為?)
ちらっとそう考えて、いやいやそんなことは、と否定する。
「でも。これ、見た目程甘くないよ。ちょっと食べてみ? 」
「あ……うん……」
気のなさそうな返事をした後、突然何か思いついたような悪戯っぽい表情をする。
「じゃ、詩雨さん」
気持ち詩雨に顔を近づけ、あーんと口を開けた。
ともだちにシェアしよう!