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第15話

 小さい物音がしたかと思うと、何か頭に装着される。 「んん??」  何だか覚えのある……。  そう感じて、いいよと言われる前にぱっと眼を開ける。 ──眼の前で、ケモミミの男がにっこり笑っていた。  そして、勿論自分の頭にもついているのを、手で触って確認した。手触りから、例の黒猫の耳だと分かる。 「今日の服に合ってますよ」  大きく襟ぐりの空いた、ふんわり感のある五分袖の黒いセーターを、詩雨は着ていた。 「遥人……おまえ……いつのまに」  どおりで自分だけ先に行かせたはずだと、納得する。 「あ、そうだ。詩雨さん、忘れ物。机の上にありましたよ」  眼の前にぶら下げたのは、青いリボン。  あ……と言って詩雨が受け取ろうとすると、遠ざける。そして、するっと彼の首に巻き付けリボン結びをした。 「可愛いですよ。首輪みたいで」 「んぐぐ。可愛くない」  口をへの字に曲げる。 「いいじゃないですか。ハロウィンだし。ハッピーハロウィン」  語尾にハートマークがついてそうだ。まったく憎めない。 「ま……いいか」  と諦めた感を出して言うが。 (オレも、遥人のケモミミは、はっきり言ってめちゃ好みだし! しかも、この間は黒かった髪が、今日はアッシュブラウン!  この狼の耳の色といっしょじゃ〜んっっ)  かなりテンション上がっていたことは、けして知られてはならない。 「ハッピーハロウィン。ケーキ食べよ」  詩雨は、再びケーキと向き合った。大事そうにフォークで小さく一口分つつき、口の中に入れて咀嚼する。 (かわいすぎる……)  拗ねて唇を尖らせた顔も、もぐもぐ動く口も、何やら良からぬことを考えている表情も。  遥人にはすべてが可愛かった。  本人は自分のことを『オッサン』と言い、幾ら遥人が可愛いだの綺麗だの言っても、けして認めない。  そういった好意のある眼で見られていてもまったく気づかず、よそ見をすることもない。その辺は大変助かる。  遥人は、可愛い詩雨を見ることができるのは、自分だけでいいと思っていた。 ★ ★  二口目を食べ終えてから、遥人の方を見る。それから、テーブルの上のケーキ。何も減っていなかった。 「ケーキ食べなよ」 「俺、甘いものは……」 「あ、そうだった」  浮かれすぎて忘れていた。遥人は食べれなくはないが、甘い物は苦手だった。 (じゃ、なんで二つ? 全部オレの為?)  ちらっとそう考えて、いやいやそんなことは、と否定する。 「でも。これ、見た目程甘くないよ。ちょっと食べてみ? 」 「あ……うん……」  気のなさそうな返事をした後、突然何か思いついたような悪戯っぽい表情をする。 「じゃ、詩雨さん」  気持ち詩雨に顔を近づけ、あーんと口を開けた。

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