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第16話
「へっ?」
一瞬何のことか分からなかったが、遥人の意図を理解すると、
「いや、ムリムリ」
自分の顔の前で激しく手を振った。顔は勿論真っ赤である。
それでも遥人は、口を開けたまま待っている。
「…………」
「…………」
(も、ムリっっ!!)
その顔には最後まで逆らえず、詩雨はフォークで遥人のケーキを少し掬って眼の前の口に近づける。
遥人は自分からも少し近づいて、ぱくっと口を閉じたかと思うと、あっという間に咀嚼して飲み込んでしまった。
それから、ぺろりと唇を舐める。
(はっ? なに? このムダな色気は )
ケーキを食べただけなのに、狼の耳をつけた男は、何処か肉食獣を思わせるような色気を漂わせていた。
激しくドクドク音を立ててる心臓には気がつかなかったことにして。
「あとは自分で食べなよな」
そう言うと、自分も少し大きめに掬って口の中に入れた。
「──詩雨さんのケーキが食べたいな」
そんな言葉が聞こえても、もごっとしか言えず、頭の中ではクエスチョンマークが飛び交っていた。
遥人が眼の前で、にやっと笑ったかと思うと、急に頭をぐいっと引き寄せられ口を塞がれる。
「んんんんん???」
遥人は唇を強引に割って入り、まだ口の中に残っていたケーキを舌ごと絡め取る。口の中が空になってもまだ、遥人の舌は詩雨の口内で蠢いていた。
詩雨の唇の端から、つつーっと半透明の甘そうな唾液が滴る。
苦しくなって、遥人の胸をぐいっと押しやると、やっと唇が離れた。
「ハルっ何すんだっ」
滴った唾液をぐいっと手の甲で拭う。
「自分の食べろ」
「俺、甘いもん得意じゃないんですけど。でも、詩雨さんが食べてるのは美味しそうだ」
そんなことを言っている彼の眼に情欲が滲んでいるように見えた。
「同じケーキだろっ」
心持ち身体を遠ざける。
が、遥人が手で自分の皿のケーキを掴んで追いかけてくる。
「詩雨さん、もっと食べていいですよ」
半分程突っ込まれてもごもごする。仕方なく噛み切ってどうにか口の中に収める。
スポンジの欠片がこぼれ、口の周りにクリームがついた。
透かさず遥人の顔が近づいてきて、クリームごと口の周りをべろべろ舐め回される。
頭にはケモミミ。
なんだか酷く倒錯的な気持ちになってくる。
じん……と身の内に、熱が溜まってくるのを感じた。
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