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萩ノ宮 2

「……あぁ〜〜、なるほどな。」 涙に潤んだ眸の理由を聞き出したまでは良かったが、その内容に目線を逸らしてしまいながら、そう、呟いた。 前期に女をひっかえとっかえしていた八雲水樹が、夏休みがあけた途端に、抱く側から抱かれる側になっていようとは、想像の域を遥かに超えていた。 が、それくらいでは動揺しない自分に驚きつつも、幼い頃から、昂輝自身、過去、そういった誘いがなかったわけではない。身近な人物は性にだらしない人ばかりだったし。 日本よりも、そういったことにオープンだった国に育ってしまったが為の、賜物なのだろうけれど。 複雑そうな表情で、他学部の人間に、親友が抱かれていたのを、食い入るように見てしまっていた、という懺悔のような告白を聞いてしまった。 彼に……八雲水樹に、なんの心境の変化があったのかはわからないが、それについては、肯定も否定もしない。 性癖で、人を差別する気はないし、本人が良ければ良いと思う。ただ、夏休みの間に何かが起きたことだけは間違いなかった。 平野には悪いが、そんな現場に出くわしたのは、尾行した彼の責任であるし、ある種、事故みたいなものだ。 「……まぁ、うん、そういうことか。まぁ……気にするな。 と言っても、お前にとっては、親友のことだから気になるだろうが……悪いな、オレは育ちが良くないから、この手の話には慣れてるんだ。 それにオレもこの容姿だから、その手の誘いは子供の頃から多かったのも事実だが、だからといって、男性経験があるわけじゃないから、良いのか悪いのかも言えないけど、 国の性質上、同性婚も出来る州もあるけど、国民全員がそれに寛容ではないしな。 オレ自身は可もなく、不可もなくだけど。 それは個人の自由だと思ってるし。 物事には多方面からの考え方が必要になってくることも仕方のないことだ。 オレのはとにかく節操がなくてな。そういや、八雲も知ってたみたいな口ぶりだったな。 まぁ、あっちは女だったけど、目の前に男がいれば誰でも無差別の女だったからな。 だからこそ余計に性質(たち)が悪くて…… それでも、オレがこっちに来てからは、色々と忙しくしてたから、多少は落ち着いてたはずなんだけどなぁ……そんなだったから、結局、あいつはストーカーに殺されちゃったけどな。 だから、八雲にも夏休み前に忠告はしたんだ。そんな生活をしてたらしっぺ返しをくらうって。 だけど、あいつ、夏休み前は女に節操がなかったけど、今度は男を相手に……か。 ……何を生き急いでいるんだろうな……」 ティティーと比べるわけではないが、人生は一度きりで、いつ、命を落とすかわからない。それは、誰にでも言えることだ。 すぐに躰の関係を持ちたがるアイツは何が不安でセックス依存してるのかはわからないし、セックスに関してはデリケートな部分ではあるから、わざわざそこに首を突っ込んで行く必要もない。自分の過去の経験上、母のことがあるからなおさらにそう思う。 ただ、少なくても、自分の目の前にいる人間には人生を悔いて欲しくない、と思う。 ティティーは後悔のない人生だったのだろうか?アメリカの学校では頻繁に銃乱射事件が起きる。弱いものを狙う卑怯な方法だけれど、アメリカは広い。 まさか自分のところにそんなCRAZYな奴が来るとは思ってはいないだろう。どこか他人事でそのニュースを見ているだけだ。 1秒先を生きてる保証なんてどこにもないのだ。 彼が、それをわかってくれる日がくるのだろうか……? けれど、それは大きな誤算で、彼は1秒先どころか、数年先もずっと生き続けることになることを昂輝はまだ知らない。

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