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萩ノ宮 11
「Of course. Because it is your life, you have the choice.」
(もちろんだよ。君の人生なのだから、その選択肢は君にある。)
突然の裏切るような発言にも、そう言って、優しく微笑む真嶋の顔を見て、心が揺らいでしまう。
本当に昂輝のことを、考えてくれているのだと思ってしまう。その眸を閉じて1呼吸置かないと心臓のドキドキで倒れてしまいそうだ。裏切りなんて言葉は本当は嫌いだ。
彼はこうも続けた。
「Only…Must I be never sorry since I chose you?」
(ただ…選んだからには絶対に後悔してはいけないよ?)
後戻りは出来ない、してはいけないのだと。
「I understood it. Thank you. I do not have a plan. Because it is only said that I may think so impulsively by any chance…」
(わかった。ありがとう。予定があるわけではないんだ。万が一、衝動的に、そう思うかもしれないというだけだから…)
昂輝は淡く微笑んだ。
生きていてくれるなら、どこにいても構わない、そう思いつつも、血縁者と離れることのできない心の弱さ。
最初は、言葉もわからない国に、あっという間に連れてこられ、言葉を学び、音楽を心の拠り所に、ようやく馴染んできた第二の故郷。
今の昂輝には、またゼロからの対人関係を作る気力もなかった。アメリカでも変人のルームメイトということで友人は少なかったし、研究に追われてそんな暇もなかった。
何せ、同年代の人間がいなかった。飛び級で大学にいた自分は色んな意味で異色な存在だった。特待生でいるための成績の維持、まだ幼い見た目、研究や論文に追われる日々。
そして、やっと卒業を迎えて母のところに卒業の報告と入院の説得を兼ねて、久しぶりの対峙だった。あんなに母に疎まれ、殺されかける程の気持ちとは思わなかった。
深い愛情を感じているわけでもないが、父や祖父は、自分に居場所を与えてくれている。
それが、ティティー以外から与えられたことない昂輝には、何よりも嬉しかったのだ。蓋を開けてみたら自分はこんなにも弱い。ティティーが居ない今、自分の居場所はここにしかないのだと思い込むほどに。
「何かあれば、頼って欲しい。」
そう言いながら、彼は元のポジションに戻っていった。
真嶋は、祖父にお辞儀をして、礼を述べると、祖父は表情をしかめた。
「昂輝、あとでわしの部屋に寄りなさい。」
苦々しい口調で、祖父から声が掛かる。返事も聞かないまま、彼らは音楽室を後にした。
昂輝に反論の余地すら与える気はない様子だった。昂輝は、ため息混じりに、彼らの後ろ姿を静かに見送った。
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