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萩ノ宮 12
3人が出ていったドアが閉まるのと、このタイミングを待っていたかのように、葉香が口を開いた。
「悪いわね。私もこのあと、音合わせなんだわ。これで失礼するけど、また、こういう機会は大歓迎だから、声かけて?待ってるわ。今度は期待してるよ。クリスの眸の色、私は好きだよ。それを楽しみに来たのにその色残念すぎ」
「やだね。目は無理。けど、今日はありがとな。」
「あっ、ありがとうございました!!」
「次こそはいつもの格好で呼んでね、じゃ、またね」
挨拶の間も足が移動していたから余程のギリギリの時間だったのだろう。彼女は足早に音楽室から退室した。
恵理子は何か言いたげな表情をしていたが、何から聞いたら良いのか、わからない様子だった。聞かれたから、といって、他の人間同様、すべてを話すつもりはないが……
「今日、演奏してみて、おまえの持った感想を素直に聞かせてくれ。」
昂輝は恵理子に尋ねる。
「正直、完敗です。プロのヴァイオリニストに、プロレベルのピアノに太刀打ちなんか、出来るわけがないじゃないですか。意地悪ですね。
それにあのピアノ……先生……
……先生は何者なんですか?」
昂輝は、ふっと口元を弛め、目を細めてから
「おまえ、何歳からヴァイオリンを始めてる?葉香は5歳からだそうだ。」
話を逸らされた、と一瞬、恵理子はムッとする。バレバレなその表情に、昂輝は苦笑いするしかない。
「……私もそれくらいから始めてます。それが何の関係があるんですか?」
「そっか。頑張ってきてるんだな……うん。
オレは帰国子女って言ってるけど、本当はアメリカ生まれのアメリカ育ちなんだが、この国に来てから、日本語とピアノを学んだんだ。
なんとなく始めたものだったけど、ピアノも16歳から20歳までしかまともな練習はしていないんだ。だから、今日は物凄い久しぶりにピアノに触ったよ。だから本当は英語ができる日本人じゃなくて日本語が下手くそな外人……かな。
それまで、音楽に興味はなかったから、学ぶことも、演奏することも、物凄く楽しかったよ。音楽は奥が深い。だから、しがらみさえなければ、今も弾いていたかもな。
音楽ってやっぱり楽しいな……」
そう言って口元がまた弧を描くが、すぐに溜息に変わる
「あ〜、めんどくさいけど音楽のことなど全く興味のないあの爺さんの呼び出しも、たぶん、これの説教だろうな」
心底嫌そうな表情で、両手をあげるパフォーマンスをする。オーバーアクションなところは外人さんっぽいと少しだけ笑ってしまう。
「理事長先生からの、さっきの呼び出しですか?そういえば先生、下の名前で呼ばれてるの?」
同じ姓の教師はいないはずなのに、と、恵理子がそう聞き返すと、
「そうそう。おまえの従兄が秘書してるあの二人、オレの血縁上の身内だ。父親と爺さん。」
恵理子が目を見開いた。
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