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萩ノ宮 15
その日の午後、早速、真嶋の運転する車に乗せられ、荷物を取りに自宅マンションに戻った後、本邸の隣の離れに案内された。
「部屋の中にあるものは、なんでも御自由にお使いください。ピアノも調律は済んでおります。お好きな時に弾いてくださって大丈夫です。
お食事は、本邸のダイニングでお召し上がりください。
お風呂、トイレはこちらにございます。洗濯物は、脱衣所にあるかごの中に、全て入れてくだされば、こちらで判断して、洗濯も致しますし、クリーニングにもお出ししますので、ご心配なさらなくて結構です。
足りないものは随時、御申し出下さい。何かご質問等はございますか?」
年若いメイドは、丁寧に頭を下げた。
年齢だけで言えば、たぶん、昂輝とそうそう変わらないはずだ。
「オレに敬語は使わなくていい。短い間になるだろうが、よろしく頼む。」
「お申し出、大変ありがたく思いますが、申し訳ございません。言葉は本邸でも、お会いすると思いますので、訂正することは出来ません。ですが、出来る限り、堅苦しくならないように、接せさせていただこうと思います。」
と、彼女は微笑んだ。標準よりも小さな身長に、黒く二つに結ばれたセミロングの髪は、少しだけ癖がある。東洋人に多く見られる一重の眸は大きくもなく小さくもない。ただ、黒々とした髪の割に、眸の色はわずかに茶色がかっていた。
ごく普通の女性だった。それほど年齢の変わらない昂輝に頭を下げることに、多少の抵抗はないのだろうか?何故、その若さでメイドなどという仕事をしているのだろうか?
日本はレディーファーストの国ではないが…
「君の名前は?」
「まきな、とお呼びください。昂輝さま。」
淡々と仕事をこなそうとするところは、出会った頃の真嶋を連想させる。
「じゃ、まきなさん。『様』は辞めてくれ。せめて、さん、にしてくれ。オレはそういうのに慣れてないんだ。」
「かしこまりました。私も敬称は結構です。そのまま、まきな、とお呼びください。」
彼女は思いの外、頑ならしい。
「朝食は6時、夕食は18:30にはご用意させていただいております。それ以降の時間なら、対応致しますが、21時以降は、シェフがキッチンから居なくなりますので、私にお申し付け下さい。
私は、本邸におりますので、ダイニングの内線で213にご連絡いただければすぐに参ります。
こちらのお部屋の電話でも、内線での通話が出来ますので、遠慮なく御連絡下さい。
お休みの日の昼食も、正午には用意させていただきますので、本邸のダイニングへお越しください。」
「……君には負けるなぁ。」
一気に全てを説明されて、途中途中で質問がなければ次へ次へと矢継ぎ早に出てくる言葉に苦笑いをしながら、彼女の真面目な性格は、仕方ないと諦めることにした。
「わかったよ。それなら、今日は19時にダイニングに行くとしよう。まずは、場所を教えてくれないか?」
まきなは「かしこまりました」と告げ、本邸と離れをつなぐ通路から、ダイニングへ続く廊下を案内してくれた。
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