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萩ノ宮 16

まきなの一通りの案内を終え、1人、離れに戻り、ふと、与えられた部屋を見渡す。 到着した際に見た建物の築年数は、新築とはいい難かったが、比較すると、内装はかなり新しく、リフォームされているということがわかる。 間取りは4LDK。普通に家族が生活するのに適している。ひとり暮らしの上に、荷物がそう多くない昂輝には広すぎる間取りだ。 キッチンがあるなら、そこで調理をしてもいいのだけれど… 郷には入れば郷に従え そんな言葉もあるくらいだ。訳のわからないまま、祖父の機嫌を損ねるわけにはいかないこともあり、一つ一つの部屋を確認しつつ、家電を見て回る。 カウンターキッチンには、ちゃんとした備え付けの冷蔵庫こそあるものの、この調子では、ドリンクを冷やすくらいしか使い道はないだろう。ダイニングテーブルはない。 なかには案の定、ミネラルウォーターが数十本入っている。冷凍庫には、冷凍のグラタンやピザ等の、簡単に食べられる物が入っていた。オーブンレンジも備え付けてある。 このキッチンを使わないとは、もったいないと思いつつ、ほかの部屋も見て回る。 脱衣所には、洗濯機の姿はないものの、大きなかごがあり、そこに洗濯物を入れろ、ということなのだろう。 その横には大きな洗面台に、棚がついていて、ミラーの後ろに、洗面台で使うようなものは収納できるようになっている。 隅には、洗面所用のハンドタオルが20枚近くかごに入っている。 さらにその横には、大きな棚があり、開けてみると、中には、何十枚とホテルのようなバスタオルやフェイスタオルが、これでもか、というくらいまで入っていた。 使いたい放題、とはよく言ったものだ。 各部屋についているクローゼットも立派なもので、すべての部屋にウォークインクローゼットがついている。 ベッドルームには、ご丁寧なことに、テレビやソファまで完備されている。小型の冷蔵庫の中には、ミネラルウォーターがところ狭しと並べられていた。 サイドテーブルにも、一輪挿しに花が飾られていて、その下は、軽く50冊は入るであろう本棚もある。反対側には、オーディオセットまで置かれている。 「至れり尽せりだ。気味が悪い。」 リビングも50畳あるという広さの中に、くの字を書くような形に、三人がけと二人がけのソファもあり、その中心には、ローテーブルがおいてある。 寝室よりもはるかに大きなテレビに、この家はなんなのだ?と怖くなってくる。 リビングには、グランドピアノも暖炉もあるのだ。 ――モデルルームか!! と心の中でツッコミを入れながら、ピアノの蓋を開く。 ピアノがNGの、今のマンションとは違い、今の時間帯なら、弾いても誰にも文句は言われないだろう。 ポロン、ポロン、といくつかの音を鳴らしたあと、椅子に座り軽く弾いてみる。 調律は済んでいる、というくらいだから、ごく最近に調律をされたのだろう。心地いい音が耳に届く。 椅子を引き寄せて、浅く椅子に腰掛けた。

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