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萩ノ宮 18
「昂輝さん、離れで申し訳ないのだけれど、こちらにいるよりはリラックス出来ると思ってリフォームをしましたの。あなたさえ良ければ、今後はこちらに住むのはいかがかしら?」
二人だけの夕食の席で、久しぶりに顔を合わせた祖母が、突如、そんな話を振ってきた。
飲み込みかけていた食事を吹き出しかけたけれど、すんでのところで抑えられた。
祖父母の考えが全くわからない。
昂輝はキョトンとした表情を、露骨に顔に出してしまった。
水で、なんとか噛み砕いていた食物を喉へ流し込み、祖母に訪ねた。
「いったい、何があったんですか?お爺様は、僕にはなんの説明もないのですが…」
祖母は、少し困った顔をしてから
「ごめんなさいね。私もなにも知らされていないの。主人はあの性格ですからね。
私も、あなたの努力は認めてるんですよ。最初こそ、言葉も通じないあなたと、どう接したら良いのか、わかりませんでしたけど……
これだけ、違和感なく話せることは、あなたの努力の結晶だと思いますよ。
私はあなたを、孫として、正式に萩ノ宮の家に招きたいと思っているの。
あの人も……リフォームを済ませた後に、ピアノを納品させたのだから、それを望んでいると思うのです。」
学生時代ならまだしも、この年になって監視されるのは、少しばかり引っかかる。 ピアノが練習できたなら、音大時代に練習させて欲しかったとさえ思ってしまう。
「お気持ちはありがたいのですが、少し考えさせてください。けれど、こうして夕食をお婆様とご一緒するのは、悪くありません。
僕は、母とも一緒に食事を摂ることは、あまりありませんでした。ここに住む、住まないに関わらず、たまに、夕食をご一緒させていただいても良いでしょうか?」
自然に出てきた言葉に驚いたのは、昂輝自身だったかもしれない。
「ええ。とても嬉しいわ。是非。
ところで、その黒髪に、黒い眸は?」
「髪はカツラです。日本の学校にあの色は目立ちすぎます。眸はコンタクトを入れています。いつもはメガネをかけて、目立たないようにしています。日除けにもなるんですよ。日焼けができない体質なので、必需品です」
まぁ、もったいない、といいながら、祖母は柔らかな笑みを浮かべ、
「明日の夕食には、普段のあなたを見たいわ。是非、ありのままのあなたできてちょうだい?あなたの子供の頃の話を聞きたいわ。」
話せるような過去など、少ないのだが、話せることは話そう、昂輝は優しい祖母の微笑みに、少し甘えてみたいと思った。
「それにしても、先ほどのピアノは素晴らしかったわ。サロンにいるみたいでした。本邸にいても、聞こえてきていました。何年も弾いていなかったなんて嘘みたいでしたよ。ずっと聴いていたい曲でした。
本当に、もったいないわ。 本当、好きな時に弾いてくださると、私も嬉しいですわ。」
そんな祖母の言葉が嬉しくて、心からの笑みで「ありがとうございます」と、告げた。
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