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萩ノ宮 20

翌朝から、父と真嶋との通勤が始まった。 元々は父の運転手なのだと、その時に知った。だが、父は実家の敷地には住んでいない為、真嶋が迎に来た際には、すでに父は車に乗っている。指定された場所が離れの玄関前、というのもあまりにも不自然で疑問が増える。 いったい、父はどこに住んでいるのだろう? それまで、疑問に思わなかったことが、次々に浮かんでくる。真嶋が父を拾って本邸まで車を回す、ということはかなりの手間になるのではないだろうか?と申し訳ない気持ちになる。 父、昂一には、姉と妹がいる。その二人も、結婚していて祖父母との同居はしていていない。 姉の美千代は祖父母との、同居を希望しているようだが、遺産目当てが目に見えている姉夫婦の目論見を見透かした祖父が、頑なに拒絶している。 妹の紀美代夫婦は、次期理事長の椅子は狙っていても、老人介護は拒否したい、と考えているようで、積極的に同居の話はしていない。昂輝の離れを見たら、飛びつくかもしれないが。 どちらにしても、職が約束されている状況に胡座(あぐら)をかき、最低限で教員免許を取得した出来の悪い子供達を抱える姉妹にとって、突如、現れた長男の息子は、目の上のたんこぶであることには、変わりないようだった。 高校生である年齢であるにも関わらず、大学を卒業しての来日であったことも、音大に通って国際コンクールにまで出場し、自大でまとめて受けた試験も満点をとり、その情報も流れていたのだろう。教員免許の数こそ教えてないものの、なんらかで調べればわかってしまうのかもしれない。 理数系や英語と音楽の教員免許の話は少なくとも祖父にも誰にもしていない。ただ、英語を言い渡された時に 証明書は渡した。萩ノ宮で取得したのは社会科の歴史のみだ。 「わざわざ、敷地にまで入って来なくても、そのへんで待っててくれたら行くのに。」 真嶋は微笑みながら、 「それは出来ません。理事長の指定した場所に送迎するのが、私の仕事ですから。」 「なんで、そこまでしなきゃならないんだ?」 真嶋なら、なにか知ってるかもしれない、と聞くが、「存じません」と言われただけだった。とりあえずは、その姉妹絡みだと解釈をすることにした。 別に経営にも、理事にも興味はない。 けれど、日本に来たタイミングなどを考えても煙たい存在であることには変わりないだろう。全く興味のないことで恨みをかう覚えもない。 けれど、それが理由になり得るほどの脅威な存在ではない。そもそも祖父の椅子には興味が無い。指名されたとしても辞退するつもりだ。 昂輝はますます混乱をするしかなかった。

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