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萩ノ宮 24
その日、珍しく送迎の車に父の姿がなかった。
「父さんは?」
真嶋に尋ねると、
「昂一様は、今日は理事会議で、一足先に学園に入られました。そのうちにあなたにも声が掛かるかもしれませんね。」
真嶋は、クスリと笑う。
「ところでさぁ、父さんって、どこに住んでるの?」
何気なく聞いた疑問だった。
「私と同じマンションにお住まいです。」
その言葉に、同じマンションの部屋違いだと認識する。
「送迎に楽だから?」
「いいえ。お伝えの仕方が悪かったですね。
私は昂一様と、生活を共にしてるんですよ。」
こちらの間違った解釈を読み取ったかのように、突然のカミングアウトをされた。あまりの唐突さに、昂輝もキョトンとしてしまう。
「……え?……え〜っと……?」
頭が真っ白になって、言葉が続かない。
「ご想像通りですよ。私達は愛し合っているんです。最初は私の一目惚れでした。」
「…マシマは…どっち?」
「ネコですよ。」
予想外だ。あの父が、男を抱いてる?この目の前の男を?あの無表情がどう迫ってるのか、想像するのも少し嫌だな、と思った。親の情事など目にしたくないのは、どこの子供も同じだろう。
「軽蔑されますか?」
ストレートに、以前のような感情のない声で問われた。
たぶん、この抑揚のない話し方は怯えている。だから正直に重くならないように返事をするのが1番だと咄嗟に判断する。
「いいや?正直驚いたけど、恋愛は自由だろ。それに、同性同士であろうと、差別する気もないよ?
義理だてするにしても、母さんは死んでるし、元々結婚もしていないし。
逆に、なんで、急にカミングアウトする気になったの?」
「……大事な人の息子だから……でしょうか。認めて欲しい、そうも思います。」
苦い笑みを浮かべ、困ったような表情が、ルームミラー越しに見える。今度は言葉に抑揚があるから変な緊張は解けているようだった。
「……最初に、オレの存在を知った時は、オレの事、疎ましかったんじゃない?」
「ぶっちゃけてしまうと、そうですね。最初はこちらで引き取って2人で育てる、という話になってました。でも、アデリアさんと揉めに揉めて親権だけ、となった時にホッとしたのも事実です。
だから彼女が亡くなった時には、そう思いましたけど、あなたの生い立ちや、日本での生活を見て、どれだけ自分が醜い心の持ち主か、と思い知らされました。」
付き合いだした頃から自分のことを知っていた、という話だとは理解した。父がアメリカに戻らなかった理由が目の前にいる。でも、この人を憎いとは思えない。それくらい自分にとっての父はいてもいなくても変わらなかった存在だった。母は違ったのだろうけど。
「あはは。正直でいいね。でも、そこは否定的になるところじゃないな。それが普通の反応だと思うよ。正直、オレも父さんの記憶はなくて、こんな形で会うことになるなんて思ってもいなかったんだ。
父さんはちゃんとオレに対しての責任はとってたことはちゃんと知ってるから。だらしない女だったからな、捨てられても仕方ないくらいには。だから母さんより好きになっちゃったんだったらしょうがないんじゃない?オレから言うのもなんだけど、父さんをよろしく頼みます。」
「……改めて言われるのも、なんだか、恥ずかしいものですね。」
真嶋は、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「一つだけ言わせてもらうけど、親の性事情の詳細は知りたくないから、惚気だけはやめて?」
そう伝えると、マシマは声を出して笑った。
その表情に、父親も幸せな気持ちになれているのだと知った気がした。
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