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萩ノ宮 28

「………酷い。」 各グループの演奏を一通り聴いた後に不機嫌な声をあげたのは、昂輝だ。ギター然り、ベース然り、音がおかしくて耳がおかしくなるかと思うほどだった。正直なところ、その音のズレに吐き気すらしている。 「ギターもベースも、チューニング、合ってるか?曲を演奏する以前の問題だ!!チューニングくらい自分で出来ないでステージに立とうと思うなよ?」 痛む頭にこめかみを揉みながらそう告げる。 軽音部の顧問を受けて、1ヶ月も経過した頃には、第二音楽室にも顔を出せるくらいは、自由になった。 部員は5〜6人のグループが、3つほど出来るくらいの人数だが、とにかく、初心者の集まりだった。 通常でのチューニングの仕方を教えて、昂輝は自己流でのチューニングをする。絶対音感が出来上がってるから、チューナーの必要はない。チューニングが終わってからチューナーに音合わせをしてもピッタリ合う。 数本のギターやベースのチューニングを済ませたあと、試しに音を出してみる。 「うっそ!!先生、うま〜っっ!!」 「これでも、昔はバンドマンだったんだよ。」 弦を弾く感覚が、懐かしい。 バンドは、自分は音大に入るとコンクールに追われて、スケジュール調整が合わなくなっていったし、年上のベーシストは院生になると言い、他にも就職するメンバーやボーカルの引き抜きがあったり、で、意見が対立して解散してしまった。 それ以降、仕事以外でギターを弾くことは無くなった。たまに、ライブハウス時代の友人のレコーディングに呼ばれて、弾くくらいだった。 「とりあえず、おまえらの本番は文化祭なんだろ?それまでには、各自、選曲したものくらいは、ちゃんと完成させるように頑張れ。 楽器はすぐチューニングが狂ったり弦が切れたりする物だから、常にチューニングは確認すること。わからないやつには教えてやること、それを後輩にも伝えていくこと。 いちいち顧問が口出すことでもないしな。自分たちでやれることはやれよ。」 カバー曲を演奏するグループもいれば、オリジナルを演奏するグループもいる。 それぞれの楽譜に目を通して、おかしなところに、注意を入れていく。ボーカルのキーがあってなければキーチェンジをしなければならないし、それぞれの音楽の好みが違うのは仕方ないが、どうにか擦り合わせをして曲を選んでいく。その作業ですら楽しめればいい。 それに応えるように、上達していく姿を見ているのは、昂輝にとっても、嬉しいことだった。 音楽は楽しいものだ、と生徒たちの活き活きし始めた様子にも伺える。趣味でもいい。その気持ちで音楽を続けていければ、なにかの壁に直面した時に、精神的なコントロールにも繋がるだろう。自分がそうなように。

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