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chased 3
ダニーに、墓の場所を聞いたから、といって、すぐに行く気もなれず、あっちこっちを歩き回っていた。しばらく彷徨ってから、二人の墓に向かう。
母の墓は、父が定期的に送金をしてるのか、墓石もあり、しっかりと生花が供えられていた。
逆にティティーの墓は、こじんまりとした墓で、生前の彼女のファンであろう人たちのメッセージつきの花束はあるものの、古く枯れてるものや、真新しいものがあったり、と雑然としていた。生前の彼女の部屋と変わらないその光景に、妙なデジャヴを彷彿させた。
どちらの墓にも、色んな話をしてきたので、1時間くらいずつは語っていたかもしれない。
街の隅っこで、膝を抱えて、夜が明けるのを待っていた場所、あの時の気持ちを思い出すだけでも、苦い気持になる。
ティティーと過ごしたアパートメントの前にも行った。
すでに別の住人が住んでいるらしく、カーテンの色が違っていた。少し視線をずらすと、別の窓に寄りかかり、黒人男性が、座って、なにかを書きとどめていた。
『キミ、こんなところで、いつも、何してるの?帰れない事情でもあるの?子供がこんなところに一人でいたら、危ないわよ。とりあえず、暖をとりにいらっしゃい。お腹空いてるでしょ?ご馳走するから、ついていらっしゃい。ここよりは快適な空間を提供できるわよ』
あの日のティティーの言葉が、頭に響く。
その言葉に警戒しながらも、洋服のセンスがまるでなってない女についていってしまった。
『綺麗な顔してるんだから、もっと目つきを良くしないとダメよ。野良猫みたい。』
部屋に入り浸るようになっても、嫌な顔一つしない女だった。
『きみは、天才ね!!こんなに飲み込みの早い子を教えるのは初めてよ!!
でも、いつか、挫折を味わうかもしれない。その時に、折れない心を養いなさい。』
――折れてばかりだよ。ティティー……
情けない、と思いながらも、思い出してしまうと、眸が潤んでしまう。
思い出を辿りながら、どれくらい歩いただろう。
陽はすっかり傾いていた。朝に、この街に着いたはずなのに…
ーーホテル、取らないとなぁ……
滞在期間は決めていない。
気持ちの整理がついたら、日本へ帰ろう。
漠然と、足を進めていると、正面から、目立つ容姿の男性が歩いてくる。
知ってる顔なのに、名前が出てこない。
友達の一人だっただろうか?
大学で見かけただけなのだろうか?
わからないまま、帽子を被った長身の男を見つめてしまう。あまりにも凝視してしまったのだろう。男はその視線を合わせてきた。
「僕の顔に、なにかついていますか?」
彼は、クリスの前で足を止めて、ニッコリとその綺麗な顔で微笑みながら、そう言った。その言葉の使い方から、知り合いではないと判断する。
「あっ……いえ、すみません。知り合いに似てる気がしたんですが、人違いでした。」
けれど、喉まで出かかってるような気分は拭えない。この顔を知ってる、と思うのだけれど、すぐに思い出すことができない。
「キミ、この辺の人?どうやら、道に迷っちゃったみたいで………困ってるんだ。良かったら、案内してもらえないかな?」
「……えっ?あ、いえ。でも、住んでたことはあります。わかる場所なら、案内しますよ。」
突然の申し出に、戸惑いつつも、こちらにも時間の制限があるわけでもない。多少の親切をしたところで、何も変わらないのだから。
地図を見ると、以前、母と暮らしていた家があったあたりだった。
「ここなら、わかります。ご旅行ですか?時間は大丈夫ですか?」
タクシーで行くのが、最も早く到着出来るはずだが、車を使うほどの距離でもなく、時間にも余裕があると言ってくれたので、歩くことにした。
「仕事でね。空港からタクシーで来たまでは良かったんだけど、降りる場所を間違えてしまったみたいで。土地勘がないから、困っていたんだけど……英語も少々苦手でね。
道を聞こうにも、誰に話しかけていいのかもわからず、困っていたんだが、美人に見つめられて、つい、声をかけてしまったよ。」
彼は愉しそうに笑いながら、誉め殺す。
「美人……って。オレは男ですよ?」
「それは、知ってるな。胸もないし、声も女性より低い。それに、服装からしても分かる。」
「それに、あなたの英語はとても流暢です。誰に話しかけても、難なく応えてもらえたと思いますよ?」
「そう言ってもらえると、嬉しいね。本当に、キミみたいな親切な人に出会えて、ラッキーだったよ。」
彼はエメラルドグリーンの眸を細めた。
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