57 / 134

chased 3

ダニーに、墓の場所を聞いたから、といって、すぐに行く気もなれず、あっちこっちを歩き回っていた。しばらく彷徨ってから、二人の墓に向かう。 母の墓は、父が定期的に送金をしてるのか、墓石もあり、しっかりと生花が供えられていた。 逆にティティーの墓は、こじんまりとした墓で、生前の彼女のファンであろう人たちのメッセージつきの花束はあるものの、古く枯れてるものや、真新しいものがあったり、と雑然としていた。生前の彼女の部屋と変わらないその光景に、妙なデジャヴを彷彿させた。 どちらの墓にも、色んな話をしてきたので、1時間くらいずつは語っていたかもしれない。 街の隅っこで、膝を抱えて、夜が明けるのを待っていた場所、あの時の気持ちを思い出すだけでも、苦い気持になる。 ティティーと過ごしたアパートメントの前にも行った。 すでに別の住人が住んでいるらしく、カーテンの色が違っていた。少し視線をずらすと、別の窓に寄りかかり、黒人男性が、座って、なにかを書きとどめていた。 『キミ、こんなところで、いつも、何してるの?帰れない事情でもあるの?子供がこんなところに一人でいたら、危ないわよ。とりあえず、暖をとりにいらっしゃい。お腹空いてるでしょ?ご馳走するから、ついていらっしゃい。ここよりは快適な空間を提供できるわよ』 あの日のティティーの言葉が、頭に響く。 その言葉に警戒しながらも、洋服のセンスがまるでなってない女についていってしまった。 『綺麗な顔してるんだから、もっと目つきを良くしないとダメよ。野良猫みたい。』 部屋に入り浸るようになっても、嫌な顔一つしない女だった。 『きみは、天才ね!!こんなに飲み込みの早い子を教えるのは初めてよ!! でも、いつか、挫折を味わうかもしれない。その時に、折れない心を養いなさい。』 ――折れてばかりだよ。ティティー…… 情けない、と思いながらも、思い出してしまうと、眸が潤んでしまう。 思い出を辿りながら、どれくらい歩いただろう。 陽はすっかり傾いていた。朝に、この街に着いたはずなのに… ーーホテル、取らないとなぁ…… 滞在期間は決めていない。 気持ちの整理がついたら、日本へ帰ろう。 漠然と、足を進めていると、正面から、目立つ容姿の男性が歩いてくる。 知ってる顔なのに、名前が出てこない。 友達の一人だっただろうか? 大学で見かけただけなのだろうか? わからないまま、帽子を被った長身の男を見つめてしまう。あまりにも凝視してしまったのだろう。男はその視線を合わせてきた。 「僕の顔に、なにかついていますか?」 彼は、クリスの前で足を止めて、ニッコリとその綺麗な顔で微笑みながら、そう言った。その言葉の使い方から、知り合いではないと判断する。 「あっ……いえ、すみません。知り合いに似てる気がしたんですが、人違いでした。」 けれど、喉まで出かかってるような気分は拭えない。この顔を知ってる、と思うのだけれど、すぐに思い出すことができない。 「キミ、この辺の人?どうやら、道に迷っちゃったみたいで………困ってるんだ。良かったら、案内してもらえないかな?」 「……えっ?あ、いえ。でも、住んでたことはあります。わかる場所なら、案内しますよ。」 突然の申し出に、戸惑いつつも、こちらにも時間の制限があるわけでもない。多少の親切をしたところで、何も変わらないのだから。 地図を見ると、以前、母と暮らしていた家があったあたりだった。 「ここなら、わかります。ご旅行ですか?時間は大丈夫ですか?」 タクシーで行くのが、最も早く到着出来るはずだが、車を使うほどの距離でもなく、時間にも余裕があると言ってくれたので、歩くことにした。 「仕事でね。空港からタクシーで来たまでは良かったんだけど、降りる場所を間違えてしまったみたいで。土地勘がないから、困っていたんだけど……英語も少々苦手でね。 道を聞こうにも、誰に話しかけていいのかもわからず、困っていたんだが、美人に見つめられて、つい、声をかけてしまったよ。」 彼は愉しそうに笑いながら、誉め殺す。 「美人……って。オレは男ですよ?」 「それは、知ってるな。胸もないし、声も女性より低い。それに、服装からしても分かる。」 「それに、あなたの英語はとても流暢です。誰に話しかけても、難なく応えてもらえたと思いますよ?」 「そう言ってもらえると、嬉しいね。本当に、キミみたいな親切な人に出会えて、ラッキーだったよ。」 彼はエメラルドグリーンの眸を細めた。

ともだちにシェアしよう!