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Chase after 3

自分の故郷だから、というのもあるのか、土地勘のない、外国人だと伝えた所為なのか、彼は無防備過ぎて、危なっかしいと思えるほど、親切に、案内をしてくれている。 これまで、一切の接触はしていない… いや、出来なかった。 街なかで、ラフな服装に、帽子を被った若い男性に声をかけられた、というのに、咄嗟に、相手が誰なのか、を思い出せずにいる様子は、仔犬を彷彿させて、可愛らしい。 偶然を装って近づいた、などとは、微塵も感じていないようだった。 やっと日本を離れてくれた、この美しい蝶を手に入れるためのチャンスが、訪れたのだ。 彼の祖父に邪魔される前に、話をしなければならない。いや、それよりも… ……今すぐにでも触れて、犯したい。 壊れかけの心を、完膚無きまでに壊してしまいたい衝動に駆られる。 もう、誰にも触れさせたくはない。 触れさせやしない。 情熱的に優しく抱きしめたい。反面、自分では手に負えない激情をぶつけてしまうかもしれない。 1分1秒が長くてたまらない。 にこやかに、彼の話に相槌を打ちながら、彼を追い詰めて、捕らえて、啼かせることばかり考えている。 まずは、ゆっくり、じっくりと時間をかけて、警戒心を解いて、逃げ場を無くして捕まえる。夜は長いのだから。 さぁ、僕の手の中に落ちておいで…

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