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chase after 4
国外に出てくれるチャンスを狙うも、一度の優勝を勝ち取ると、国内の国際コンクールだけに数回出場した後に、コンクール荒らしをすることなく、彼は大学を音大から萩ノ宮へ変え、萩の宮学園で歴史を学び出していた。
大学側からの条件の、国際コンクールでの優勝をし、これからだ、という時に、彼の家側が動いた。
当初からの条件を満たしたことにより、今度はあの祖父の言いなりになったのだ。彼なりの保身なのだろう。
報告書を見ても、誰かを欲することなく、のらりくらりと暮らしていた。
ところが、卒業と同時に、萩ノ宮の教師として、学園へ就職をしてしまった。
学園では、担任を持つことすらなく、前髪の長い黒色の髪のカツラに、黒縁の眼鏡、黒のカラーコンタクトをして、ダボダボの服を着て、ムサイ男を演じていた。
それなのに、彼の本質を、見抜いた生徒がいた。
クリスは、彼女の卒業と同時にその生徒の手をとった。根回しをされ、会うことすらままならない状況に、焦燥を覚える。
――おとなしくしていればいいものを…
それまで、誰にも興味を示さなかった彼が、生徒の女に興味を持ち、さらには、寝取られるとは、アルノルドにとって、かなりの不覚をとられてしまった。。
音声データには、彼が作ったと思われる切ない演奏が添えられていた。
その曲の詩を見る限り、その彼女へ向けた曲ではないことがわかる。
恩師のプロフェッサー・リリィに宛てた曲だ。
全ての詩が英語で書かれていたこともあり、すぐに読み取ることが出来た。
アルノルドは、母国語であるドイツ語と、英語とイタリア語、フランス語、ロシア語とヨーロッパ地域の演奏旅行のおかげもあり、いろんな都合で、使うことができたのだった。
そして、その後、彼女の死を知り、悪いとは思いながらも、胸を撫で下ろす。
今度こそ、この機会を逃がしたら、彼は自分の手の中には落ちてこないだろう。
傷心のクリスが、動くと踏んで、網を張り巡らせることにした。そして、思いのほか早く、彼は行動を起こしてくれた。
クモの巣にかかる、美しい蝶を捕食するために。
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