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chase after 5

――さて、キミはどのタイミングで弾き始める?僕にキミの望みを届けてごらん? 頬ずえをついて、クリスとピアノを遠目に見て確認をする。つい、口元が緩んでしまう。 距離をとったのは、この雑音溢れる店の中にいながらも、自分に届くように弾け、という、無言のアピールであったが、それを読み取っている様子だ。 その音を届ける為に、彼は間違いなく、本気を出してくれるだろう。 席に戻るアルノルドの背を見つめ、その姿を確認していたのを知っている。 彼はピアノの椅子に座ったまま、音を確認しつつ自分を目で追っていたのだ。 それが、その応えだと。 世界への挑戦の手始めがポーランドで、その頂点をとり、その後も国内で行われた国際コンクールを総なめにした、彼の類希なる才能が立証している。 この賭けは、アルノルドにとって、勝算しかない。彼が自分を求める未来しか認めない。 僕のためだけに、ピアノを弾いて欲しい。 その言葉の意味を彼は理解していない。 ただ、ステージに立てばいい、ということではない。 僕のためだけに、一生を捧げる。 それを理解してもらうためのステップだ。 彼が演奏を始めると、段々と騒音が減りだし、店内の全員が、クリスの奏でるピアノに口を開けて見入っている。 ――かかった。この賭けは、僕の勝ちだ。 高らかに笑いたい気分だった。 この男は天才だ!!!!! その男に近付きたくて、努力を重ねてきたのは、この僕だ。人生でこんなに必死になったことはないくらいの努力を積み重ねてきた。 ここで、演奏をさせたのは、彼の名を植え付けることと、高嶺の花にする為だ。 その花を手折ることが出来るのは、自分だけなのだ、と。 彼は、僕に望めることなど、即座には思いつかないだろう。 僕は彼を5年以上見つめてきたけれど、彼からしたら、まだ知り合ったばかりの人間だ。 そして、僕に届くように、騒音を掻き分け、強めに鍵盤を叩く指は、懸命にピアノの音を届けてくれている。 ――可愛いじゃないか。 あたりが静まり返り、自分のペースを掴んでから、この店にいる、客から従業員までのハートを掴むまでの速さには、感服する。 僕の読み通り、数分の演奏で、スタンディングオーべーションを受け、アンコールが店内を満たした。 彼を攫われるわけにはいかない。 曲が終わる前に、ピアノへと近づいて、そっと、隣へと滑り込む。その手を取り1度立ち上がらせる。 クリスも満足気な表情で、その歓声を受けていた。そして、彼は、僕を見上げた。

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