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chase after 6

「皆さん!初めまして。僕はオーケストラでコンダクターをしてます、アルノルド・シュレイカーと申します。 今宵の演奏は、今度、僕のオーケストラでデビューする、ピアニストの クリストハルト・シュミットです。 彼はこの街の出自です。今後とも応援をよろしくお願いします。 皆様のアンコールにお応えして、もう1曲…」 店の中は、何があったのか?と思うほどの拍手と指笛を吹く観客と化した。 中には唖然としている客もいたが、全員の手が止まり、肉が冷めてしまうのではないだろうか、という状態で、ナイフもフォークもテーブルに投げられたまま、放置されている。 最初にクリスに気づいた子供も、楽しそうに笑い、次の曲を楽しみにしているかのように、ずっと笑顔で、手を叩いてくれている。 目線を彼に合わせて、確認をする。 嬉しそうに微笑む姿は、今すぐに押し倒したくなるほど、美しかった。 2曲の演奏を終え、僕らは逃げるように、 ホテルの部屋で飲みなおそう! と店を後にした。 「支払いは?」 走り逃げながら、そんなことを聞いてくる彼に 「僕の側近が支払いはしているから大丈夫だよ」 と笑う。この後、自分の身に振りかかることなんて何も考えていないのだろう。 やっと手に入る。 その時が来たのだ、と、弾む心が少年のようで、とても新鮮だった。 さて、どうやって、キミをその気にさせるかな。 多少の強硬手段に出ても、触れたくて、触れたくて仕方なかった相手を目の前に珍しく緊張してる自分に笑う。 嫌だといっても、絶対に溺れさせてみせる。 やっと、啼かせられるときが来たのかと思うと、心が躍った。

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