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Inverse view 3
「放っておく……?冗談じゃない……女に寝取られるなんて、一度で十分だ……僕をあまり怒らせないでくれ。」
エメラルドグリーンの眸は、冷たい光を宿したまま、その色はさらに、氷を彷彿させる透き通った色に変化する。
その声は、怒鳴るわけではないが、静かな怒りを滲ませていた。それまでのアルノルドとは別人のような声色だ。
刹那、グイっと腕を引かれ、ベッドルームへ引きずるように連れて行かれて、その怒りをぶつけるかのように、ベッドへ強引に荷物のように投げられた。
不意をつかれたのもあるが、握られたところが痛い。かなりの力で腕を掴まれ、移動させられたのだ。投げられたベッドはやわらかく、衝撃は少なかったが、それでも力ずくで投げられたのだから、受身をとったものの、即座に動けるような状態ではなかった。
「……なにを……!!……んんっ!?」
――なにをするんだ!!
文句を言うために、躰を起こしながら口を開いたのだが、それが失敗だった。
彼は口の中に、なにかと親指を入れ、奥歯にその何かが当たる。一瞬のことだった。
プチッと、口腔内で、何かが弾ける。
中身が流れ出し、上を向いていたから当然のように喉へと落ちる。指についてしまった液剤も、上顎に塗られた。
――甘い……
勢いもあった為、反射的に飲み込んでしまったけれど……
上顎に塗られた液剤が舌に触れてしまったが、咳止めシロップのような甘さを感じた。ただ、その直後、舌もむず痒いような熱を持つ。呼吸も上がっていくから口の中が乾く。
体内へ流れていった液体が伝ったところから、熱が上がる。そのまま血液に染み込むように全身に広がっていくことが、頭で理解していても躰がついていかないし、心も置き去りだ。
そこで初めて、それが『飲め』と命じられていた、ソフトカプセルだったのだと知った。媚薬と言っていた……
液体というのは、かなりの即効性があるのだとその時に初めて知ったかもしれない。いや、その薬の効きが広がるのがやけに早いように感じる。
徐々に、その熱が全身に広がっていくのを感じる。その広がりと同時に感じる酷い倦怠感と、内側から焼かれるような躰の熱さ、ピリピリと肌の下に何かが這ってるような奇妙なむず痒さなのか、不快感なのかわからないその状態に付随してその熱は下半身にも伝わり、その気にもなっていないのに、ゆるゆると中心が勃ち上がる。
「…ぃやっ……イヤだ……なに……?」
気持ちと躰のチグハグな未知の感覚に恐怖が湧き上がってくる。このまま、自分がどうなってしまうのか、わからないというのは、恐怖以外のなんでもない。
湧き上がる恐怖にのしかかる男の顔を見上げるが、泣きたくもないのに、涙がたまって視界がぼやけている。
その涙が眦から流れ出して、視界がクリアになる。エメラルドグリーンの眸が自分を写して、強制的に高められていくクリスを見つめながら、その様子を愉しむように見つめている。
「……ひ……酷……い……」
上がる息の隙間で、その表情をみて、出てきた言葉は呂律すら危うい一言だった。
「酷い?酷くはないよ。たまらないね。段々とキミが色っぽくなっていく姿を見てるのは。
そんな姿を他人に見せてたかと思うと、腹立たしさは沸いてくるけどね。キミだって女は抱いてきただろうけど、男に抱かれるのは初めてだろう?二度と女を抱けない躰になればいいし、僕だけを求めてやまない躰になってしまえばいいんだよ。そのまま、溺れてしまえばいい。
理性なんか早々に捨ててしまえばいい。絶対に気持ち良くしてやると約束するよ。僕が愛してあげる」
そんなことを言われても、そういう性的マイノリティーに偏見は持ってはいないが、自分が男に抱かれる趣味はない。それなのに、自分の意志ではない何かに、躰が侵食されていくようだった。
息も上がりだし、頬が紅潮し、瞼が重たい。急激に躰の力が抜けていく。
――こわい……!!
たぶん、怯えきった顔をしてるであろうが、そんなことを気にする余裕なんて、すでにない。
未知の感覚に、恐怖しか沸き上がって来ない。今までの人生において、結果が見えてくることにしか触れてこなかった分、恐怖は膨れ上がる。足がガクガクと震えて、僅かに動くが、何もないシーツを擦るように滑っていく。
全身が痺れたように、躰に力が入らない。抵抗しようと、自分にのしかかる彼の肩を押そうと触れた手も、添えられたようになるだけだった。
「これだから男の躰はわかりやすくていい。」
クスりと嗤い、足の間に入り込んだ躰をずらし、彼の膝で躰の中心を押され、その刺激にクリスは自分でも聞いたことのないような、高い声をあげた。
「イイ声だ。キミは僕のものになる為だけに、この世に存在しているんだよ?」
シャツを裂くように破り、アルノルドは首筋から唇を落とし、手は肌を撫で回した。そっと触れるだけなのに、驚くほどの快感がゾクゾクと背筋を走り抜ける。
「……っ、はぁ……あぁ……やぁっ……ん!!」
――こんなの……嘘だ……
こんな女みたいな声が出るわけがない。出したくもないのに、喉から押し出される。
気持ち悪いはずなのに、受け入れたくなんてないのに、触れられた場所からは、ジワジワと愉悦が広がっていき、気持ち良くて仕方がなかった。
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