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Inverse view 9

どこまで覚えていたのだろう? いや、いつまで意識があったのだろう? 抜けてしまいそうなほど、腰を引かれたかと思うと、一気に穿たれる。ビリビリと痺れるような快感が背筋を走り抜けた。背中を滑る口唇が気持ちいい。今はバックで抱かれてる、ということか。体位まで気にしてる余裕もない。 「………ひあぁっ!!」 「……ッ!!」 激しく何度も揺さぶられ、打ち付けられて悲鳴のような声を上げ続け、彼のものが脈打つように躰の中で跳ねて、マグマのように熱い飛沫を躰の奥で感じて、達したのだと知る。それを幾度となく繰り返していた。 そのカウントさえ、途中まで出来ていた気がするが、すでに、数えるのも無駄なくらい同じことを繰り返しているような気がした。自分の回数と彼の回数が違いすぎること、こちらの精を吸われているのではないか、と思うほとに回数を重ねる度に、より強く穿たれる。 何度、揺さぶられようと、彼の硬度は落ちることなく、また、激しく腰を打ち付け始める。 躰の中から湧き上がる愉悦に弄され、ただ、ただ、喘いでいた。それでも熱は引く気配を見せない。よく声が枯れてないと思う。 頭は真っ白で、イキっぱなしの状態で、これでもか、というくらい、彼の熱情に翻弄された。 「……も……苦し……」 アルノルドよりも、多く、何度も何度も吐精させられていたクリスには、もう、出るものも出なくなっているのにも関わらず、求められるだけ、内壁はうねり、心に反して、躰はその要求に忠実に求め返していた。 苦しいのに、躰の奥底から湧き上がる熱は、治まることを知らないかのように躰の中を這いずり回っている。 いつになったら、この強烈な薬の熱から解放されるのだろう?!強すぎる快感が苦痛と入り混じり苦しいのに、求めずにいられない。なんで、こんな厄介なものを使われたのか。使われなかったらこんなに深くは溺れなかっただろう 『処女には優しくしたいのでね』 そう言ってたくせに、ちっとも優しくなんかない。体位こそ変えるけれど、どの体位で何度、精液を注がれようと、無限に続くのではないか、という快楽の宴には、終わりが見えない。吐き出す精が減る気配すら見せない。 彼の吐き出したものが、腰が動くたびに掻き出され、さらなる潤滑剤になり、より深い快感を引き出した。女だったら確実に妊娠しているだろう、と思うほど躰の奥に吐精され続けている。 乱れる息は、休む間もなく、短く繰り返される呼吸に、口の中がカラカラになっていく。いつの間にかサイドテーブルに置かれたペットボトルから水を含み口移しで水を飲まされる。乾いた喉が潤う。その時だけ腰の動きが緩くなる。器官に入ったり吹き出さないように注意はしてくれてるようだ。けれどそんな判断もできる状態では無い。 言葉もなく、何度も貪るように合わせた唇。 お互いが夢中になって舌を絡ませ、吸われ、声を上げすぎて乾いた舌を潤す。乾いた喉をアルノルドから与えられる唾液や水で、何度も、何度も、飲み込み潤す。 セックスに溺れる、という言葉を、初めて実感した夜だったかもしれない。 男であるにも関わらず“女のように”抱かれ、自分が抱いてきた女たち以上に、その快楽を貪った。薬の力を借りてたとはいえ、たぶんこの快楽を知ってしまった以上、きっと後戻りは出来ないだろう。かつての後輩がそうであったように。 ――――――こんな快楽なんて知りたくなんてなかった。 人間の性として、マイノリティではあるが、異常なことでないことは、日本史ででも、突き詰めれば知られてることでもある。 名のある武将には“必ず”同性の性欲処理の相手がいたからで、それが男の本能でもあるからだ。 いつ、首を取られるかわからない生命の危機を感じると、男は子孫を残す、という本能が活発に働きだす。戦場に女性を連れて行けない戦国時代には『稚児』と呼ばれる、少年の『夜伽の相手』がいたのだ。 先刻、命の危機は確かにあったが、こんな発情期の獣のように、本能のままに命を狙った相手と交わるとは思いもしない。 しかも、危機感を感じたのはクリスの方だ。 なのに抱く側ではなく、抱かれる側だと言うのも皮肉なものだと思う。ただ、自分を抱いた男を抱けるかと聞かれても『NO』だろう。 「あっ、あぁ、あぅぅ……」 突然、ぷつり、と耳元で音がした気がした。 躰が限界に悲鳴をあげた音だったのかもしれない。 なにかが弾けたかのように、意識が、暗闇に引き込まれていった。

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