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Inverse view 15

遠くで、話し声がする。 聞こえてくる声は心地よく優しい声色なのに、刺々しい言い方をしていて、もったいない。 怠い躰を起き上がらせることも億劫だった。 ――なんで、こんなに怠いんだっけ…? ……そうだ。アルノルドだ。 毎日、毎日、ベッタリと張り付かれて、躰の奥まで暴かれるのだ。気を失うまで抱き潰される。たまにはもう少し優しいセックスで、余韻に浸りながら微睡んで話をしながら寝落ちるとかないのか?と思うが、毎晩の記憶が途中でなくなっている。 毎日のように吐精させられて疲れ果てていた。一人でいた時だってそんな毎日吐き出していたわけじゃない。どちらかと言えば一人で処理をすることはほぼない。性欲が強いわけでもなかったし、不自由だと思ったこともない。 『さすがに、薄いね。』 その日、一度目の吐精の際に、彼は必ずと言っていいほど口で受け止め、必ず言う。 『……もっ……イヤ……出ない……』 何度もイカされた後、イキっぱなしの状態になってから、ドライでイき続けるのを見るのが、好きなのだそうだ。その度に苦しいほどの快楽を与えられながら、声が枯れるほど啼き続ける。その頃には理性など欠片も残ってない。 ――――悪趣味だ…… メスイキ状態のまま気を失うように眠りに落ちる為、慣れない躰だけに、毎日怠いのだ。 『手取り足取り』とは、よく言ったもので、自分で何かをする気力を、ただ、奪われてる気がしてならない。 最近では本当に食事すら、自分で出来る状態ではないのだから、アルノルドの思う壺の状態だった。テーブルマナーをまともに身につけてないのに、食べさせられてるうちに覚えてしまいそうなほど、アルノルドは手馴れていた。 真嶋も、八雲も、絶対にこんなセックスはしてないはずだ。でなければ、あんなにアクティブに動いてるわけが無い。それだけこの男の精は強い。 けれど、10代の頃から勉強漬けだったことを考えると、少しあの2人の体力からすれば、レベルは低いのかもしれない。日本で最初の年にちょっとの日焼けが火傷になってからは夏の日差しも天敵になっていたし。 アメリカの土地の中でも北に位置したこの街では、日本ほどの強い日差しはなかった。だから一定の年齢までは不自由はなかったのだ。 自己申告で言わせてもらえるならば、体力がそれほどないわけではないはずなのに、これほどの消耗をするのは、理性がすっ飛んだ後の自分にも、責任があることは、わかっている。アルノルドを空っぽにする為に躍起になるらしいが、アルノルドは回数を重ねても薄まってく気配すら見せない。濃いままの種をクリスに打ち付け続ける。 『オナニーを人間に教えられたサルが、寝食を忘れるほど、それに耽る』というのと同じだろう。 アルノルドとのセックスの相性が抜群なのだと思う。他と比べたことがないからわからないけれど…… どんな醜態を晒して乱れても、彼がそれを受けて止めてくれることをわかっていることが大前提なのだが、理性がぶっ飛んだ後、アルノルドを強請るのは自分の方らしい。それに応えるアルノルドも絶倫の部類なのだろう。 真嶋や、平野からの八雲の話を聞いていた頃は、自分がこちら側の人間になるとは思ってもなかった。嫌悪感は抱かなかったが、完全な他人事だった。 グルグルと、夢を見ているような不安定な思考から、ゆっくりと意識が覚醒していき、瞼が上がるようになる頃には、その声の主がアルノルドだと気づく。言葉がドイツ語ではなく英語だということはわかるのだが、まぁ、ここはアメリカだ。英語で話していること自体が自然なことなのだが。 ――誰と、話してるんだろ……? そんな興味を持ち、ベッドから躰をゆっくりと起き上がらせた。

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