82 / 134
Inverse view 18
抱きしめられるだけで、これほどの安心感を与えられる存在は、たぶん、アルノルドだけだ。
たぶん、『あの一言』が理由なのかもしれない。
色々なことがあったけれど、こんなに心が弱ったことはない。なんでアルノルドか隣に寝ていないだけでこんなに心細くなるのか?そんな感情を持っていたことに驚く。
日本を飛び出してきた時は、心が疲れていたのは事実だ。
今までだって、1人でベッドに寝ていたはずだし、誰かと一緒に抱き合って眠ったことなんて数えるほどしかない。
母、ティティー、聡美、と3人の命が、間近に散ったことに心が疲れてしまっていたけれど、アルノルドは、目の前にいるのに、なんでこんな不安感に襲われるのだろう?
母の淡いブルーの眸とも、ティティーのへーゼルの眸とも、聡美の黒目がちな眸とも違う。
彼に触れられて、彼のエメラルドグリーンに見つめられると、安心する。
頬に手を添えられ、その気持ちよさに眸を閉じる。
無意識に、彼の首に腕を回すと、それに応え暖かい唇が重なる。舌を絡めると、気持ち良過ぎて、立っていられなくなりそうなくらいゾクゾクと背筋を走るものがある。
時に暖かい陽だまりのような、時に冷たい氷のような光を宿す眸。
「愛してるよ。クリス……」
男らしい肉厚の唇から紡がれるのは、低く艶のある声で、恥ずかしいほどの、愛の囁き。
『運命の相手』と呼ばれることには、疑問を覚えることはあるものの、彼のストーキングの話を最後まで聞けた試しは、今のところない。途中で怖くなるからだ。何故、そんなことまで知ってるんだ?ということまで知られていることの怖さだった。
アルノルドからすれば、やっと来たチャンスとばかりに軟禁され、クリスの人生が欲しい、という。世界中の女性を魅了する容姿をもっているのはアルノルドの方なのに。
そんな彼が、一つの提案を出してきたのが、昨晩眠る直前に告げられた言葉だ。
「……クリス、僕と一緒に暮らさないかい?一年の大半は、家には帰らないけど、一緒に世界中を歩みたい。キミと一緒に過ごしたいんだ。」
唇を触れ合わせながら、彼は甘く、切なく懇願するように囁く。その間もどんどん躰を暴かれていく。
まだ、寝食を共にしてから、3週間ほどだというのに。
それでも、この男が求めるほどのものを、自分が、どれだけ持っているのだろうか?そんな疑問を抱えながらも、彼の腕の中で喘いでいると、
「キミが、これほどにも僕の近くにいて、僕の腕の中で、そんなに気持ち良さそうな表情をして、僕だけのものなんだと思うと、もう気持ちが止められないよ。離れて暮らすことなんて、考えられないんだ。萩ノ宮には僕が話を通す。キミはキミの気持ちをお爺さんに話すんだ。」
眸が、刹那、大きく見開かれた。
大きく奥を突かれ、背が撓る。抱え込まれた躰を固定され、揺さぶられ、言葉にならない声が、喉の奥からつき上がる。
「はぁ……やっ……あぁ……んっ、あぁぁ」
「こんな声は僕以外に聞かせてはならないよ?肌を合わせるのは僕だけだからね?」
コクコクと頷きながら、その快楽を受け入れる。
――――あぁ……本当に離れられないのは、アルノルドではなく、オレの方かもしれない。
そう思いながら、強すぎる愉悦に慣れすぎたクリスは理性を簡単に手放した。
ともだちにシェアしよう!