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Inverse view 20

アルノルドは立ち上がり、クリスの横まで来ると、手を取り片膝をついて、手の甲にキスをしながら、レストランでしたような、プロポーズ連想させるような気分になるスタイルで、クリスを見上げる。 あの時、プロポーズのようだと思った自分が恥ずかしかったが、なまじそれが嘘でもなかった、ということが、この部屋で立証されてしまったのだが…… 「僕は、キミが傍にいてくれる限り、絶対にキミより先には死なないよ。一秒でも、永く生きてみせる。だから僕と一緒に生きて欲しい」 この言葉は、クリスが一番弱い部分でもあり、欲しい言葉であり、弱ってるクリスの心に、一番響くことをアルノルドは知っている。 ――ズルい…… クリスはそう思いながらも、アルノルドの手を離せずに、その眸は涙を耐えている。瞬きをしたら零れてしまいそうな、その涙でけぶって、はっきりとアルノルドの表情が見えないが、その潤った眸が、朝日に光り、アメジストのように輝いている。 「僕と一緒に生きてくれないか?」 ――いまさらな話だ。他の選択肢なんて与えようとしていないくせに。 がらがらと音をたてて、自分の矜持が陥落する音がしたような気がした。同時に眸から溜まった雫が流れ落ちる。 もう、この男から、心も、躰も逃れることは出来ないだろう。5年以上存在を追われ、あらゆる財を使い、自分のことを調べあげ、最初は脅されながらだったが、躰から陥落し、食事やティータイムの時間の話も楽しく、ベッドの中でも『愛してる』と繰り返され、洗脳された気分でもあるのだが。なによりこの温もりを知ってしまった。 現状を考えれば、完全に彼の支配下に置かれた身の上だ。だが、このまま拉致をするわけでもなく、穏便にことを進めようとしているところは紳士だと思ってしまう。 少なくとも、自分はもうすでに、この男とのセックスに溺れて、腕の中にいることが心地いいのだから。そして、目が覚めたときに隣にいないことが不安になるほど、依存している。 「……アルノルド……約束を違えたら……絶対に……許さない……」 か細い声で、アルノルドに訴える。自分といることで彼の寿命を縮めるのは本意ではない。 「僕は、キミには絶対に嘘はつかないよ?僕がキミを幸せにする。だから、キミが僕の傍にいることで、僕のことも幸せにして欲しい。キミが傍にいないと、キミを抱かないと、僕は干からびて死にそうになる。 僕の一番の幸せは、キミが傍にいてくれることなのだから。」 恥ずかしさなど、おくびにも出さず、飄々と言ってのけるこの男の本音がどこにあるのか、判断がつきにくかった。すべてが本当なのか?そうではないのか? とりあえずは、日本に帰り、父や祖父と話をしなくてはならない。こちらの意見など聞く耳を持たない祖父をどうやって説得するのか、シュミレーションを考えておかなければならないだろう。 アルノルドは、それに着いて行く、と言い張っていたのだが、クリスを捕まえる為に裂いた時間を取り戻す為に、ヨーロッパ数国に行かなくてはならない、とヴァルターに怒鳴られていた。 この時間を作る為に、ヴァルターは相当なスケジュール調整をしなければならなかったらしく、八つ当たりに近い状態で、苛立っていた。 それはそうだ。人ひとりを捕まえる為だけに、世界中を飛び回る指揮者として、分単位のスケジュールを組んで、それを誘導、守護をしているのは彼だ。 それに、クリスにも、まだ、日本で済まさなければならないことが山のようにある。 それを片付けてから、オーストリアに渡らなければならないだろう。どれくらいの時間と労力を使うか、想像を絶することは間違いないだろう。それを思うと、ため息が出そうになったが、アルノルドが変な勘違いをしそうなので、なんとか堪えた。

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