95 / 134
2人の囁き 続き
「ますます、興味深いですね。使った媚薬って、どんなものなんですか?それに、どんな感じなんですか?」
目を輝かせて聞いてこられても、赤裸々に語るには、恥ずかしすぎる。
「……他人に話すようなことじゃないだろ。」
「今度、アルノルドさんにお会いしたいですね。是非、その媚薬を試してみたいものです。」
そう言う真嶋は、かなり楽しそうだった。
――食いつきどころが、そこなのかよ……
少しウンザリするのもつかの間、真嶋は、早々に話題を変えてきた。
「ところで、アルノルドさんは、どのような方なんですか?」
やっと普通の質問に戻って、昂輝は、少しだけホッとした。
「男から見ても、カッコ良くて、雑踏の中でも、十分に、惹きつけられるほどの目立つ男だよ。」
「それは、一般論です。あなたの前では、どんな方なんですか?」
「……優しいし、包容力もハンパないよ。甘やかし好きで、飯すら、一人で食べさせないくらい甘いよ……けど……
もう、オレがいない人生は考えられないって。
そう、言ってくれた。
オレよりも一秒でも永く生きるから、そばにいて欲しいって言われたよ。
その言葉がある意味、決め手だったなぁ……」
短期間に母が自殺、恩師が他殺、将来を誓った彼女が病死
一人の少年が背負うには、厳し過ぎる、目の前に突如現れる『死』、失うことへの不安を、アルノルドは熟知していたのだろう。
それを払拭してでも、手に入れたいと、根拠のない断言をするほどに願われたのなら、おそらく、昂輝が泣くことはないだろう。
「幸せになってくださいね。日本での公演の際は、先にご連絡を頂ければ、会場に足を運びましょう。」
「もちろんチケットはプレゼントさせてもらうよ。その代わり、その時には、おばあ様も一緒に連れてきてくれると嬉しいんだけど。」
「えぇ。任せてください。奥様のことは、私にとっても、お母さまのような人ですからね。」
「そうか。オレは真嶋の息子にもなるのかぁ。
じゃあ、父と祖母をよろしくね、『お母さん』」
媚薬の話はアルノルドにしておいた方が良さそうだ、と思った。
ともだちにシェアしよう!