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preparations 18
一度、シーツに包んだまま、クリスを床に寝かし、ベッドメイクをしてから、シーツの上で後処理をして、また、次のセックスのためにベッドに横になり、クリスを抱きかかえて横になる。
「……ん……」
と呟きながら、アルノルドに擦り寄ってくる姿が腰に来る。クリスの髪を撫でながら
「……本当に君は魔性だねぇ。きっと誰が近づいても君を嫌う人間はいないし、誰をも魅了してしまうんだろうね。なのに、その魔性が血縁者には一切通用しない。不思議だね。だから本当の人の愛し方を知らない。僕が、家族としての愛し方をたっぷりと注いであげる。
どんな手を使ってでも、君を放さないし、傷つけるものも排除していくよ。」
隣で眠る柔らかい金髪に唇を寄せる。気を失うように眠った躰はとても暖かい。これまで誰かと褥を共にしたことはない。この男ほどの運命を感じたこともなければ、いつ、命を狙われるかわからない状況で、自国に近い人種を信じられないのも事実だ。ヴァルターは幼馴染であっても、金で雇われてる身だ。アルノルドをそういった意味で裏切ることは絶対にない。
ただ、クリスに至っては、なんともいえないのが残念なところだが、自分がダメだという限り、ヴァルターがクリスに手を出すことはないだろう。どんなに悪態をついたところで、主従関係は変わらない。アルノルドが『Yes』というまで、絶対に手出しは出来ないのだ。
こうして寄り添ってぬくもりを感じて安堵するのも、ただ一人だけ。寄り添っていないと不安になるのも一人だけ。あの『マキナ』の餌食になってなっていないこと自体も、この腕の中にいるからこそ、自分の手の届くところにいることが嬉しく幸せに感じる。
女スパイとして育てられた『マキナ』は躰で男を陥落させるテクも身につけているはずだ。どんなテクなのか、試してみる気も、クリスで体験させる気もない。任務遂行に忠実なマキナはそういった方面では慎重でもあるし禁欲的だ。
ただ、クリスで『試してみても良いでしょうか?』と言われた時の、頭の血の上がり方は尋常ではなかった自分に、今となっては思い出し笑いをしてしまう。どうせなら、萩ノ宮昂三の孫のうちの誰かを陥落させて、クリスの護身を、とも思ったが、彼女には一蹴されてしまった。
確かに彼女の言う通りだと思う。彼女の目的は『萩ノ宮』家を乗っ取ることではない。誰かを指名して、その男を理事長にのし上げよ、と命じれば、それを遂行するだろう。たとえ、その躰を使ったとしても。その争いに興味のないクリスを巻き込む必要性もないし、自分もそうだ。
『血の掟』の中で生を受け、その跡継ぎについては、その実力主義の中で、力、人脈、能力、そして、人を使うことに長けた人物。最終的にはボスである父が決めることなのだろうが、その争いから一番乗りで降りたのが、アルノルドだ。
一番、ボスに近い位置にいた、と言われていた実兄・ベルンフリートが殺されてからは、アルノルドの人生も少しずつ変化が現れている。ベルンフリート派がアルノルドのバックに付きだしているからだ。実兄を殺した犯人が見つかっていない限り、アルノルドのアキレス腱になっているクリスが狙われる可能性も皆無ではないのだ。
決してベルンフリートが自身の用心に欠けていた訳ではないのだ。たとえ、自分を護る存在であっても、身を挺して護ってくれるSSが完全に育っているのか、それはわからない。さらに言えば、他の兄弟と繋がっている可能性も捨てきれない。クリスにつけるSSにしてもそうだ。今は吟味してる状態だが、万が一にも、目を放した隙に、連れ去られる可能性だって捨てきれない。
それでも、やっとの思いで手にした自分の腕の中で眠る、実年齢より遥かに若く見える美しい青年を手放すことなどもう、考えることなど出来ない。彼の大切なものを全て奪うことがわかっていても、それを上回るものを与えてやればいい。
抱くたびに甘く蕩けていく躰に溺れているのは、クリスではなく、自分の方だ。その声、柔軟に受け入れる躰、絡み付いてくる内壁、舌を這わせると、甘さすら感じるその滑らかな肌、潤んだ眸が快楽を訴えてくる表情、どれをとってもアルノルドの胸を締め付けてやまない。
『この人を護り、大切に愛を育みたい』
たいていの男は、そういった理由で人生のパートナーを決めていることだろう。産まれついてのゲイである自分でも、そう思える人物に出会えたこと自体が奇跡であることも自覚している。
出会いは勝手な片思いだった。国際コンクールのステージの上でピアノを弾くたびに、カラフルに色づく金色の髪。その色は角度によって、色々な色に変化をした。そんな綺麗で柔らかい髪など見たことなかった。それに加えて、鍵盤を見つめる眸がチラリと見え隠れするその美しい紫色の眸に魅了された。
――欲しい。あの美しい美少年が欲しい。どうやったら僕を見てくれる?どうしたら僕に微笑んでくれるだろう?
手元のパンフレットを見ると、その内容に驚くことしか出来なかった。日本の音大からのエントリーでピアノ暦はたったの2年。国内コンクールで何回もトップを取り、その成績から、国際コンクールへの推薦があったという。しかも、名前は日本名ではなさそうだ。
『クリストハルト・シュミット』
ドイツ系の名前だ。本国はヨーロッパなのかもしれないが何故、日本の音大に進み、そんな東方の国から、国際コンクールに出てきているのか、さっぱりわからなかった。
「……彼のことを調べろ」
隣で待機していたヴァルターに伝えると、パンフレットから最低限の情報を書き出し、それを、ヴァルターの部下に渡し、情報徴収に向かう。
この調子でいくと、彼の受賞は間違いないだろう。彼に遅れをとってはならない。妙な危機感を感じながら、次回受ける指揮者コンクールで優勝しなければならない、そう感じた。
翌日には、頼んだ資料がまとまってアルノルドの手元に届く。そこに載っていた情報はアルノルドの予想を遥かに超えた情報が纏められていた。
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