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preparations 33

シャワーを浴びて、バスローブのままミネラルウォーターを取りに行くと、ヴァルターがソファーから気だるそうに起き上がりながら、 「いつまでヤッてんだよ。長げぇっつうの。部屋にいたって声が聞こえるし、ここにいても聞こえる。欲求不満でどうにかなりそうだよ」 ――あんな色っぽい喘ぎ声を聞き続けるのは、苦業以外の何ものでもねぇんだよ…… 他の誰かだったら、“欲しい”と望めばアルノルドは簡単に手放しただろう。 ……そう。あの男でなければ。 ホテルで見たうっすらとした灯りの中、荒く息を吐き、喘ぎながら、何も写していないであろう薄く開いた瞼の隙間から見えた、アメジスト色の眸に吸い込まれそうになった。 ――その艶に惑わされる。 きっと、アルノルドも同じなのかもしれない。白く綺麗な肌と、揺れる柔らかい髪、そして、あの紫色。男女を問わず惑わせる魅惑的な艶。 「はっ……まだ、足りないくらいだね。いくら抱いても、この飢えが満たされることがないんだよ。彼は誰が見ても最高の存在だ。だからこそこれ以上野放しにはしてられない。 ヴァルター、ジジイにアポを。」 そう言って乗り込んできたこの別宅。3月までは教師を続けると言うのを無理やり12月に前倒しにしたはずだ。アルノルドのわがままで、だ 「また会ってどうするんだ?今度こそあの爺さん、血圧あげてぶっ倒れんぞ?それに、年度末まで教師を続けると決めたのは本人だろう?今学期末までって、前倒しにしてくれただけありがたいと思え。早々に連れてきたいなら、それについては本人を説得する方が先だと思うが?」 「もう、僕は待つ気はない。クリスも頷かせてみせる。あのジジイ、孫を可愛がるどころか、あれだけの才能を持っているのを知りながら、臨時講師扱いをしているんだぞ? クリス一人が抜けたところで、ジジイは痛くも痒くもないだろう。」 「だから!!待てよ!!クリスは受験対策講師なんだろ?困るのは爺さんじゃなくて、生徒の方だろうが!!クリスが大事にしているものも、わかってやれないのか?」 いちいち返してくヴァルターにイラつき気味に、 「……おまえは、どっちの味方なんだ?」 「客観的に物事を見てるだけだ。今回、おまえのわがままで振り回すには人数が多すぎる。 クリスが大事にしてるのは生徒だけじゃない。婆さんも、だ。」 アルノルドを見据えてその翠の眸を見つめる。アルノルドは動じることもなく、 「彼を手に入れるためだったら、どんなことでもしてみせようじゃないか。たとえ、何もかもを失っても、クリスだけいればいい!! ……ヴァルター、わかるか?僕は怖いんだよ。クリスほどの魅力的な人間は見た事がない。男女問わず、彼を見たら絶対に魅了される……」 ヴァルターはため息をついて、自分の主に対してこうも告げた。 「……そうだろうな。でもな、まずはおまえは鏡を見ろ。そこにも間違いなく同じタイプの人間が映ってるはずだ。しかもクリスよりも性質(たち)が悪い顔したやつが映るだろうよ。」 「僕は関係ないだろう?女にモテたいと思ったこともない。いたのはクリスが手に入るまでのオナホだけだよ。期限付きって言ってそれでもいい、と言った連中だけだ。ポーランドで彼を見た日から僕は彼だけを想い続けた。 それでも彼は僕の存在を知らずに……僕のことになんか興味すら示さずに生きてきてるんだ。今を逃したら、もう、クリスは僕の手の中から消えてしまう……」 「ずいぶんと信用してないんだな。クリスが今の生活を捨ててまでおまえの手を取ろうとしてるのに、そんなふうに思われていると知ったらショック受けんぞ?」 「だから、僕は必死なんだよ。彼に捨てられないようにね。」 「クリスも全く同じ返事をすると思うがな。クリスがおまえの外見にだけ、躰の関係にだけでしか繋がってないと思ってんのか?あれだけの天才を捕まえておいて見下してるってことになるぞ?クリスだって馬鹿じゃない。自分の人生を預けられる相手だと思ったからアルノルドについて行こうとしてるんじゃないのかよ。おまえが信じてやらずに誰が信じてやれんだよ」 思わぬ反撃にアルノルドは黙り込む。クリスと接触を持った時点で、嫌われても仕方ない手段を取った。それでも彼はアルノルドの思いを受けいれ、それを柔軟にこなそうとしている。 そんなアルノルドの手を取るために、誰にも文句を言わせない方法で、自分の責任を果たしてから日本を旅立とうとしてくれているのだ。 それが彼なりのケジメであり、生徒への礼儀であり、身軽になろうとしている。 アルノルド自身、祖母には気に入られ、孫がその男に抱かれているのに、自由にさせている。そして、才能を伸ばしてやろう、という気持ちにさせたアルノルドはある意味すごいと思うが、ことある事に喘ぎ声を聞かされる身にもなって欲しい。欲求不満が爆発しそうだった。クリスの声で自分がヤッてる姿を妄想して何度抜いたことか…… クリスは仕事とアルノルドの嫉妬で潰されて朝まで起きないだろう。ヴァルターも部屋に戻って眠ることにした。

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