77 / 134
Inverse view 13
三日目、ストーカーの底力を、知ら示された気がしてならない。行きたかった場所、食べたかったものをしっかりと把握され、至れり尽くせり、という具合だ。
車で移動とはいえ、運転席には見たことがあるような、ないような……また別の人が運転手、助手制にヴァルター、後部座席にアルノルドとクリスが座らされる。黒いスーツに身を包んでいるのはヴァルターと同じで、アルノルドは何人で移動してきたのだろう?
後部座席のラフスタイルのアルノルドとクリスと、前方のがっちりスーツで固められた2人と比べると、あまりにもお気楽な服装だった。
SS というものはこんなにゴツい人たちがなるものなのだろうか?護衛なのだからそれなりに身体は鍛えているだろうけれども、この街でも日本でも縁のない生活だったからその存在自体が珍しい。
アルノルドといえば、外でも構わず、フォークすら持たせてもらえず、子供へ食事を与える母親の如く食べさせられ、さすがに、人前で食べ物を口に運ばれることには、成人男性として強い抵抗を感じて、それには抗議したが聞き入れてはもらえず、どうしても嫌なら、と個室のあるレストランを予約してしまうこの人はなんなんだろう?
けれども、それならルームサービスでの食事の方がマシだと思った。レストランの個室に入るような服装でもないのだ。クリスは頭を抱えるしかなかった。
躰が楽になってきた4日目には、またベッドに誘い込まれ、久しぶりだから、と後孔を念入りに解され、全身に舌を這わせて、しつこいくらいの愛撫に啼かされた後、躰を繋いでも苦しいくらい突き上げられ、あまりの執拗さに泣きながら喘いだ。もう、薬など使わなくても快感を拾い上げる躰は完全に出来上がっていた。
そこからは毎日のように、愛を囁かれ、その口づけに、愛撫に身悶える。洗脳されているように甘く響き、それが当たり前のような心地良さと、触れている肌の温かさと、指と舌で感じる愉悦に身を委ねた。
どこに行くにも、何をするにも完全にアルノルドのペースに振り回され乱れているものの、ほぼ離れることなくアルノルドの手はクリスに触れ続けた。髪に、額に頬に口唇に首に肩に胸にどこにでも口唇を寄せる。
求められて、何度も躰を重ねた頃には、完全に溺れて捕まってしまっていた。昼夜関係なく互いが欲しいと思えば抱き合う。こんな爛 れた状態でいいのか、と思いながらも、この綺麗な男がセックスの時に見せる自分だけを求める時のオスの表情 が好きだと思った。
自分の躰で感じてる……と思うだけで汚してるような罪悪感と恍惚とした優越感……汗を滴らせ目を細めて耐えるような表情、興奮で赤らむ目元、弾む息……クリスが手を伸ばした時に見せる男らしい笑みも……
こんな短期間で、アルノルドの手管にまんまとハマってしまったのだ。手練手管ということは、それなりに経験も積んでいるということだ。他にもあの表情を知ってる人がいるのかと思うと胸が痛む。
――完全に捕まった……
正確には軟禁だが、監禁されたようになり、行動を共にして、相手に行動の許可を得ることで、生まれる安心感から犯罪被害者であるにも関わらず、その犯罪者の気持ちに寄り添ってしまう、人間にある精神的危機回避の方法……
『ストックホルム症候群 』
まさに、その言葉が当てはまっているのだと思う。
この人の役に立ちたい、この人の傍で生きていくんだ、と心が求めてしまったのだからどうしようもない。
愛されることに慣れてないクリスが、これでもか、というほど愛情を与えられて、その精神的にも肉体的にも満たされる感情に流されないわけがなかった。
急激に男に慣らされた躰が、快楽を求めて陥落するのも早かった。アルノルドの技巧はクリスを不快にすることなく快楽へと導いた。
……堕ちていく……
……たとえ……
その『慣れた』手が、不安しか生まないとしても。
ともだちにシェアしよう!