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preparations 4
「本当は日本史だけ学ぼうと思ったんだけど、1ヶ月もしないうちに教科書丸暗記したから、その勢いで世界史も丸暗記した。
飽きてきたから、六法全書も丸暗記してやろうかと思ったくらいだよ。あの頃、時間だけはムダにあったからな。ただ、マンガ日本昔ばなしってアニメがなかなか見終わらなくて、それに1番時間がかかったな。」
思い出すと、ククッと笑いが込み上げてくる。
「……センセ、ちょっと待って、何聞かされてんの?私」
「……なんだろうな……歴史なんてものはどこの国のものでも大きな出来事と言えば、暗いばかりで憂鬱になる。アニメは平和で穏やかだったりドタバタもあったり当時の人達がどんな暮らしをしてたのか、を面白おかしく教えてくれる。日本って国を知るにはすごく面白かった。アニメを見たのも初めてだったんだ。
実家にも下宿先にもテレビはなかったし、見てる時間もなかった。情報はネットを繋いでれば入ってきたし。
急に日本に来ることになったけど、日本語もわからない、当時色々あって失語症になってて、声を出すことも出来ないから、スマホの翻訳で日本語にしてもらった字を必死でメモに写して、なにか楽器をやってみたい、と書いて音楽教室に行ったんだ。汚い字だったよ……」
「……色々って?」
「……日本に来るきっかけになった母親の死……かな。一応、無理心中みたいなもの?かろうじて蘇生に成功してもらえたから今生きてる。その時の後遺症で一時的に声が出なくなってたんだ。母子 喧嘩の延長みたいなもんだったんだけどな。母親を怒らせたのはオレだから……」
なんとも言えない表情で田山は昂輝を見つめていた。
――全く……生徒相手に何を吐き出しているのだろう……本当に……
「アルノルドの楽団もコンクール受賞だけで入れるなら、毎年誰かしらは受賞するんだから、とてつもなく間口が広いことになる。でもたぶん選ばれるのは彼の感性に合う音が出せる人なんじゃないかな。実力はそこについてくるものではあるだろうね。だからそう言う噂がたつのかも……
まだ、アルノルドとは話をした程度だけど、彼の音楽への姿勢は素晴らしいと思うよ。たまにとんでもないけど……オレはまだ、彼が作り上げる音は聴いたことがないんだ……日本公演の時は見に行けてないし……」
「……な〜んかさ、センセのイメージが180度変わったんだけど。ね、センセ前髪上げて顔見せてくんない?」
「なんでだよ?」
「隠されてるものって見たくならない?メガネも外してね。見せてまずいことでもあるの?」
……あると言えばある、が、言えない。
「ちょっとだけな」
メガネを外して軽く前髪を持ち上げて椅子に座ったまま立ち上がった田山を見上げる。
「……センセ、眉毛だけ脱色してんの?てか、普通に外人顔じゃん。しかもお母さん、美人だったでしょ?そっちに似たな……チッ、すっぴんでそれだけ綺麗って色んな意味で腹立つんだけど。色も白すぎるし。改めて顔みたら日本人要素の方が少ないって詐欺だわ。てか、なんで片方だけ赤く腫れてんの?」
「……そういうことにしといてくれ。あと肌の色は色素異常だから。この前髪は日焼け防止も兼ねてんの。それと、人の顔を見て舌打ちすんな。腫れてる?あぁ、昨日、理事長にビンタで張り飛ばされた。」
「はぁ?なんで理事長がセンセを殴るのよ」
「3週間、携帯も持たずに飛び出してアメリカに滞在して、連絡せず仕事もサボった挙句に学校を辞めてオーストリアに行くって言ったから。」
「え?この学校の教師ってそんなパワハラの元で働いてんの?」
「んなわけねぇだろ。1/4はあの人の血がオレの中に流れてるからだよ。オレから見たらあの人は祖父なの。」
「え?じゃぁ、お父さんって……昴一センセ?」
「そ。留学時代に。あの人も英語教師してんだろ?大学はアメリカの大学出てんの。でも、卒業してからは疎遠。
だからオレは父親のことはほとんど知らないで育ったし、オレが産まれたからって入籍したわけでもないから私生児なわけよ。あっちの戸籍上ではオレと母しか居ない。日本の国籍では親権だけ取られてて、養育権は母にあって、うちの親たちややこしいんだよ」
「なんか、センセさ、庇護欲そそられるよね。しないけど、なんか、抱きしめたくなる。」
「オレは無理。」
「え?即答で拒否?!なに、センセって潔癖?」
生徒は懲りてるし、アルノルドにバレた時が怖い。どこで見張られてるか、わかったもんじゃない。
「……そういうことにしといてくれ」
「でも、センセがステージに立つ時は1番のファンになるよ。たとえ、お姉ちゃんと同じステージだったとしても」
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