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2章 3-1

3  金曜日、19時。正哉は家の近くのファミリーレストランに妹の絵里奈と一緒に入店した。  昼間、絵里奈から夕食を一緒にどうかと連絡があった。そのため今日は定時に仕事を終え、同僚からの飲みの誘いも断り急いで帰ってきた。  そのファミリーレストランは正哉と絵里奈が2人で食事をする時によく利用する。金曜日の夜ということもあり、今は席がかなり埋まっている。  2人席に案内された正哉と絵里奈はメニューを開いた。  「うーん、今日はどうしようかな」  絵里奈は優柔不断でこういう時注文するものを決めるのがかなり遅い。  正哉は一通りメニューを見ると直ぐにそれを閉じてスマートフォンを見始めた。その様子に絵里奈は顔を上げる。  「え、もう決めたの?」  「うん、唐揚げ定食にする」  「早いなぁ」  「絵里奈はゆっくり決めていいよ」  洋食を中心に和食、丼ものまで様々なメニューが展開されているこのファミリーレストランでは絵里奈は尚のこと決めるのに時間がかかる。一方正哉はいつも即断即決だ。  そういえば祥哉は注文を決めるのが早かったな、と正哉は先週の土曜日のことを思い出した。  あれから祥哉とは全く連絡を取っていない。日曜日、絵里奈と祥哉は新宿に映画を観に行き、夕食を共にして帰ってきたことは絵里奈から聞いている。本当にそれ以上は何もなかったのだと正哉は信じたかった。  「お兄ちゃんも祥哉さんも決めるのホント早い」  「……祥哉さん? そういえば日曜日は何食べに行ったの?」  「映画行った後、そこの近くの喫茶店でご飯食べて帰ったよ」  「ふぅん」  祥哉がデートに適した洒落た店なんて知っていそうもないし、絵里奈もそういうことに頓着しない。ファミレスでなかっただけまだマシか。  「祥哉さんね、やっぱりお兄ちゃんに似てるなって思った」  「え、顔だけじゃない?」  「違うよ」  そう断言した絵里奈に、正哉は眉を眉間に寄せた。祥哉と似ていると言われるのは気分が悪い。  正哉の顔を見て絵里奈は笑った。  「どうしたの、怖い顔して」  「……別に。何食べるか決めた?」  「うーん、ミートドリアにするかたらこパスタにするか迷ってる」  「間をとってミートソースパスタにしたら?」  「それは違うんだよ」  何をそんなに迷うことがあるのか正哉にはさっぱりわからない。  「もうそろそろ店員さん呼ぶよ」  スタッフの呼び出しボタンを押す正哉に、絵里奈が慌てる。  「もう、意地悪。じゃあカレーにしよ」  「はあ?」  ホールスタッフが2人の席に来た。結局絵里奈はカレーを注文し、正哉は唐揚げ定食を注文する。  以前この店に来た時も絵里奈はカレーを食べていた。彼女は焦らせると何故かとりあえずカレーを注文する。特別それが好きなわけではない。  絵里奈がセルフサービスの水を2人分持ってきてテーブルに置いたのに、正哉は礼を言った。時代遅れかも知れないが、彼女がこういうことを率先してやるところは女らしいなと正哉は思う。  彼女がお手拭きの袋を開けながら言う。  「お兄ちゃんは、祥哉さん好きじゃないの?」  「何で?」  「似てるって言ったら嫌そうな顔したから」  やはり絵里奈はちゃんと見てるんだな、と正哉は目を伏せた。嫌いだが、ここではっきりとそう言っていいものだろうか。絵里奈は彼を気に入っているだろう。  「別に嫌いじゃないけど……まだそんなによく知らない人だし」  「そう? 私はね、祥哉さんのこと好き」  「えっ」  絵里奈の言葉に、正哉は手に持っていたグラスを危うく落としそうになった。  「絵里奈、それって……」  「祥哉さんと付き合いたいって思ってる」  そう言う彼女の頬は赤くなっていた。眼鏡の奥の両目は潤んでいる。  祥哉の言っていた「絵里奈さんは僕が好きだ」は完全に彼の自意識過剰だと思っていた正哉。絵里奈が彼に興味があるようなのはきっと自分の双子の弟だからで、それ以上の意味はないだろうと。  しかし本当に絵里奈は祥哉のことを好きになってしまった。

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