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2章 5-1

5  身体を洗った2人は、一緒に湯船に浸かっている。安いラブホテルの割にバスルームは広く、浴槽は男2人でも入ることができた。  シュウは正哉の脚の間に彼に背を向ける形で座っている。こういうことは普通恋人同士でするものではないか、と正哉は思ったがシュウがやりたいと言うのでもう何も言わずに了承した。  セックスしている時から分かっていたことだが、シュウは「恋人ごっこ」が好きらしい。  リョウのこともそうだが、正哉は20代の若い男に弱い。特にリョウやシュウのような痩せ型の男にはつい甘くなってしまう。  正哉が目の前のシュウの後頭部を見ていると、ふと彼の耳たぶに幾つもピアスホールがあることに気づいた。しかしピアスは1つも付けていない。普段は付けているのだろうか。それとも昔は付けていたが今は痕が残っているだけなのかも知れない。  その耳に指先で触れると、シュウは少し横を向いて口を開いた。  「マサさんってさ、なんかこういうの似合わないよね」  唐突な彼の言葉の意味がよく分からず、正哉は眉を眉間に寄せた。  「一緒に風呂入るのが?」  「いや、そうじゃなくてさ。今日みたいに俺とリクさんみたいなテキトーな人と3Pしたりするの」  「そうかな。そんなに真面目そうに見えるかい?」  正哉はよく真面目だと他人から言われる。確かに家も会社のデスク周りもいつも綺麗にしているし、外に出る時はある程度身なりを整えている。仕事に遅刻したこともない。  性に関してのことだけを除けば、真面目な人間と言えるだろう。  湯船の中で正哉の手を握るシュウ。  「うん、きっと色んな人とセックスしてきたんだろうけどさ。普段はもっとちゃんと……恋人とかじゃなくても、固定の人とヤってるんじゃないかなって感じ」  シュウの言ったことは概ね当たっている。20代の頃は色んな男とセックスしていたが、ここ何年かはリョウを含む数人をローテーションしているような状態だ。  たまに新しい誰かとセックスしようかと思い出会い系サイトを開いても、大抵はめんどくさくなってやめてしまう。それも歳のせいだろうと正哉は思っている。  「うーん、そうなのかな。でも私は君が思うような真面目な人じゃないと思うよ」  「それでも、あんなゲイバーでやっすいウィスキー何杯も飲んで、アホみたいに下ネタばっかり言って騒いでた俺達とホテル来るなんて、いつもはしないでしょ?」  「…………そうだね」  正哉は昨夜、絵里奈とファミレスに行った後、最寄り駅に戻って新宿に向かった。祥哉を絵里奈から引き離す方法がどうしても浮かばず、何もかも忘れてしまいたい気分だった。どうにもできない無力感があった。  新宿2丁目にあるゲイバーやミックスバーを一人で何軒か梯子し、終電が無くなった頃に入った店でシュウとリクの2人に出会った。  1人でウィスキーをストレートで飲んでいた。最も正哉はほとんど酒で酔わないのでそれで気が紛れることも無い。  何杯かそれを飲んでいると、シュウとリクに絡まれた。リクの方は最初からあからさまに正哉の太腿や股間を触ってきた。そしてシュウから、これから2人でホテルに行くが一緒にどうか、と誘われた。正哉は二つ返事で付いて行った。  そして今に至る。正哉に背を向けて座っていたシュウは、彼の方を向いて座り直した。  「何かあったの? 失恋でもした?」  「それとはちょっと違うかな」 そう言う正哉だが、絵里奈と分かり合えないと思えることは失恋に近いのかもしれないと頭の片隅で考えた。ずっと心を通わせられると思っていた妹が、最近離れていってしまったように感じる。  「……でも、近いのかも」  「それでヤケになってるの?」  「そういうことなのかな。全部忘れたかったんだ」  「忘れられた?」  「全然」  正哉は自嘲の笑みを浮かべた。忘れられたのはセックスしていた時の一瞬だけだ。嫌なことは考えないようにすればするほど考えてしまうものだ。

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