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2章 7-1
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金曜日の夜、21時頃祥哉のところに正哉から電話があった。職場のセクシーキャバクラに入るリョウを見た後、その店の近くのコンビニに入っていた祥哉は外に出て電話を取った。
正哉は明日絵里奈をどうするつもりなんだと聞いてきた。嗚呼、絵里奈から聞いたのか、と祥哉は思った。彼は本当に妹のことだけは気にかける男だ。
祥哉は全て彼女次第だと答えた。当然だ、男女の関係というのはどちらかの勝手でどうにかなるものではない。当たり前のことを言っているのに何故か正哉は毎回怒る。
しかし今回、正哉は「そう」と言っただけだった。沈黙が降りた時、電話越しの正哉の背後がやけに騒がしいことに気づいた。
どこにいるのか尋ねると、ストーカーのくせにわからないのかと笑い混りに言われた。残念ながら今のストーキング対象は別の男だ──とは言わず、わからないと返答した。
すると正哉に「新宿」と言われ、一方的に電話を切られた。
この時間に、何故正哉は家とも職場とも関係の無い新宿にいるのだろう。祥哉は妙に胸騒ぎがした。
夜、正哉に新宿にいると言われると嫌でも新宿2丁目を思い浮かべる。リョウとは別の男に会いに行っているのか。今日はリョウに近づくべきではなく、本当に正哉を見張っておくべきだったのか。
祥哉は正哉の方へ行こうかと考えたが、どうせ彼は詳しい居場所を教えてくれはしないだろう。それより今はリョウに集中することにした。
そして今、祥哉はリョウの家のバスルームにいる。家主に部屋を片付けるから先にシャワーを浴びて来いと言われた。
シャワーのお湯を止め、先に渡されていたバスタオルで身体を拭く。
脱衣所に出ると、床にリョウのものらしい明るい色の髪の毛がたくさん落ちているのが見えた。あまり掃除機をかけることがないのだろうか。彼はマメなタイプには見えない。
そのまま全裸で脱衣所を出ると目の前にリョウがいた。
「うわ、びっくりした」
スーツから部屋着に着替えたらしいティーシャツにスウェット姿のリョウは、突然出てた祥哉にそう言った。そして彼の身体をまじまじと見る。
「……本当にそっくりだな」
「正哉さんと?」
「うん。でもちょっとあんたの方が厚みがあるかも。あと乳首小さい」
「よく覚えてるんだね」
「そりゃあ何度も見てるし。で、ちゃんとケツの中も洗った?」
「言われた通りにしたよ」
苦笑した祥哉。まさか他人の家で浣腸させられることになるとは思っていなかった。しかもこれから目の前の若い男にアナルの処女を奪われることになるのだ。
奪われるならせめて正哉が相手であってほしかった。あの大きさの陰茎が初めてで入るのかどうかは別として。
リョウは祥哉の横をすり抜け、脱衣所に入る。
「じゃあ俺も軽く身体流してくるから待ってて。部屋の中のもの勝手に弄るなよ」
「君の部屋になんか興味ないから安心してよ」
笑顔でそう返した祥哉に、リョウは舌打ちして脱衣所のドアを閉めた。
リョウの部屋は祥哉がシャワーを浴びている間に多少は片付けたらしいが、綺麗とは言えない。缶チューハイの空き缶と空ペットボトルが部屋の隅に固めて置いてあるし、流し台には洗い物が溜まっている。テーブルの上にはヘアワックスや化粧品が所狭しと置かれ、ついでにチョコレート菓子の箱なんかも並んでいて、まるでズボラな女性の部屋だ。
部屋にあったベッドに座る祥哉。このまま横になったら寝てしまいそうだ。
リョウの仕事中、一時的にネットカフェで仮眠は取ったものの、いつ彼が出てくるかわからないので多くの時間店の近くを彷徨いていた。
ほとんど寝ていないが、仕事をしていたリョウもそれは同じだろう。最も、これはリョウにとってはいつもの生活習慣なので問題ないのかも知れない。
あれから結局正哉からの連絡は無い。一体新宿で何をしていたのだろう。リョウに聞けば何かわかるだろうかと思ったが、先程の会話からリョウは正哉のことをほとんど何も知らないと分かった。彼が知っているのはセックスのことだけだろう。
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