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3章 2-1

2  ──2000年、晩夏。  中学2年生になった正哉は、土日の昼間は大抵家の近所の図書館にいるか、古本屋で漫画の立ち読みをしているかのどちらかだった。家にいるのが嫌で、あまり小遣いも多くないとなると、友達と遊ぶ予定がある時以外はそれくらいしか選択肢がなかった。  2学期に入って間も無くの頃、土曜日に図書館に向かおうとしていたら道で若い男に声をかけられた。まだ夏の暑さが続く晴れた日、目の前に現れたその男を正哉は知っていた。  髪を明るい色に染めていて痩せたその青年は、ニコニコと笑って近付いてきた。  「よお、正哉。でかくなったな」  「白城……さん?」  「おう、覚えてたのか」  白城拓真(しらき たくま)。5年前まで正哉に性的虐待をしていた男だった。  正哉は母親の再婚と同時に引っ越しており、彼が引っ越し先を知っているはずがなかった。なのに何故彼は自分の目の前に再び現れたのか不思議だった。  「どうして?」  正哉が近くまで白城を見上げると、彼は肩に触れてきた。彼のそのギラついた目。久しぶりに見たな、と正哉は思った。普段は生気のない目をしているのに、正哉に手を出そうとしている時だけ獲物を狩るような目をする。  「偶然って恐ろしいよな。俺、元々この辺に住んでるんだけど、お前の母さんはそのこと知らなかったんだなぁ。まあお前がここにいるの知ったのは最近でさ。お前、いつも朝ここ走ってるだろ?」  「あ、はい」  正哉は学校で入っている部活動はパソコン部だったが、中学に入ってから毎朝近所を走っていた。  「最初は凄い美少年が毎朝走ってんなぁとしか思ってなかったけど、1回出来心で付いてってみて、お前が入ってた家で出迎えてた女見て驚いたわ。子供って5年も経つと見た目変わるもんだよな」  「え……」  この男に自分の後を尾けられていたのか、と正哉は驚愕した。  「なあ正哉、今から俺の家来ないか?」  そう言う白城の手が正哉の肩から首筋を滑り、頬に触れて離れた。  正哉には小学生の頃、白城が自分にしていたことの意味は流石にわかっていた。正哉に興味を持たないアンネッテは大事にせず、白城と別れるだけで済ませてしまったが、あれが法を犯すような行為であると正哉は既に知っている。  そして白城の家に付いて行ったら何をされるかなど大体予想がつく。  しかし正哉は胸が高鳴るのを感じていた。幼い頃に抱いた白城への好意はまだ自分の中にあった。  またこの男に必要とされたい。自分の価値をこの男に見出してほしい。そんな欲求があった。  「……行きます」  正哉がそう答えると、白城は低く笑って付いて来いと言った。2人は並んで歩き出した。  昔、白城と会う時は彼がアンネッテと正哉の部屋に来る時だったので、こうして2人で外を歩くのは初めてだ。  「正哉、お前今は中学生?」  「はい、2年です」  「ふぅん、家にいるの嫌なのか?」  「…………はい」  白城には何もかも見透かされている気がした。尾けられていたらしいが、毎週末自分が昼間出掛けているのも見られていたのだろうか、と正哉は思った。  「今でもお前の母さん変わってないんだな」  白城は正哉が幼い頃、アンネッテに酷い扱いを受けていたことを知っている。  「あの頃よりはマシになりましたよ」  「でも急に新しい父さんとか連れてこられても、はい仲良くしますとはできないだろ?」  「ええ、まあ」  「相変わらずなんだなぁ、お前の家」  白城は正哉に同情しているようで、口元は嗤っていた。この家庭環境でなければ、正哉が白城に好意を持つこともなかっただろう。  白城の家は正哉の家から歩いて15分程度の場所にある古いアパートだった。本当に近くに住んでいたのだな、と正哉は唖然としていた。  2階建てアパートの1階の角部屋の鍵を開けた白城は、正哉に中に入るように促した。間取りは1Kで、入って目の前にあるキッチンにはほとんど物が無く、コンロの周囲にビールの空缶がたくさん並んでいた。  正哉が先に中に入りスニーカーを脱いで部屋に上がると、後から入ってドアに鍵をかけた白城に後ろから抱きつかれた。  「…………っ?!」  「正哉ぁ、お前本当に可愛いなぁ」  絶句している正哉の細い身体を、白城の大きな手が撫で回す。  「付いて来たら何されるかくらいちゃんとわかってたんだろ? お前は馬鹿じゃないもんな」  「……白城、さん」  恐怖に正哉の声は掠れていた。確かにわかっていて彼に付いて来たが、いざ男に後ろから拘束されると怖い。  白城の手がティーシャツの中に入ってきた。昔されたように胸を撫で回される。そしてもう片方の手はスウェットの中に侵入し、下着の上から陰茎を触られた。  「ここも勃起できるようになってるんだろ?」  「は、はい」  震えながらも必死に答える正哉の耳元で、白城は低く喉を鳴らす。  「セックスはもうしたのか?」  「いえ、したことないです」  「それじゃあ俺が童貞のまま非処女にしてやるよ」  「え、それって……」  「ちょっとずつ優しくしてやるから」  白城が正哉の身体を反転させ、唇を奪った。しっかり身体を抱きしめられ、深く口付けながら臀部を揉まれた。彼の硬くなったものが腹部に当たっている。  唇の隙間から舌を入れられ、口内を蹂躙される正哉。彼に求められている。彼に身体を支配される。歪んでいるとは分かっているが、その事実に正哉は興奮していた。  「んっ……ふ、ぁ……」  正哉は白城の舌に自分の舌を絡ませ、腕を彼の背中に回した。その行為に驚いたのか、白城は唇を離した。  顔を赤くし、琥珀色の瞳を潤ませた正哉が白城を見上げていた。身体の震えはもう止まっている。太腿に押し付けられた少年の股間が勃起していることに白城は気付く。  「……は、なんだお前。えっろ」  「白城さん……、ずっと会いたかった」  「ふぅん」  目を細めた白城。正哉の黒髪を撫で、赤く染まった頬に触れる。そして彼の手を引き、玄関から見て直ぐ左側にある脱衣所に入った。  「服脱いで」  そう言って白城が服を脱ぎ始めたので、正哉も言われた通りにした。

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