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3章 2-4

 白城が後孔から指を引き抜き、正哉は不思議そうに振り向く。彼はベッドの下にある引き出しを開けていた。  「あったあった」  そう言って彼がそこから出したのは、黒くて大きさが違う球体が7~8個ほど連なった20センチほどの長さのものだった。それの名前はわからないが、アダルトグッズであろうことは察しがついた正哉。  「何ですか? それ」  「アナルビーズ。初心者にはこれくらいがちょうどいいだろ」  シャワーの時のシリンジといい、何故白城はこんなものを持っているのだろう、と正哉は不思議に思う。アナルビーズにローションを塗り、更に正哉の後孔にもローションを塗り直す白城。  「挿れるから痛かったら言えよ?」  「はい……、ぅんっ」  解された後孔にビーズが挿入された。1つ飲み込む度に開口部に刺激を感じる。4つほど入ったところで、正哉は後ろ手で白城の腕に触れた。  「ちょっと、待ってください」  「キツいか?」  「はい」  「ふぅん」  突然、白城がビーズを引っ張って1つ目まで抜いた。  「ひうっ!」  ビーズが引き摺り出される強い刺激に、正哉は驚いて身体を仰け反らせた。  「な、何するんですかっ」  「気持ちいいだろ?」  更に白城はローションをもう1度垂らし、今度はビーズを5つ目まで一気に挿入した。  「んああっ!」  「5個も入っちゃったなぁ」  口元に笑みを浮かべながらそう言う白城。アナルビーズを中で動かし、正哉の前立腺を擦る。  正哉は身体をピクピクと震わせ、涙目になっていた。痛みはないが圧迫感はある。  「も、もう無理ですっ」  「そうか? 気持ち良さそうだぞ?」  白城の手が正哉の陰茎を掴む。暫く触られていなかったはずのそれは硬くなり、先端から透明の液体を垂らす。アナルビーズが正哉の奥を擦る度に反応しているようだ。  「あぅ……やだ……」  「処女のくせにもうケツで感じてるじゃねぇか。ちょっとお前自分でちんこ持って」  「へ?」  正哉の右手を取り、彼自身の陰茎を握らせる白城。  「自分で抜いてみろ。ケツの方は俺が弄るから」  「え、そんな」  「早く」  彼を急かしながら白城がまたアナルビーズを抜いた。  「あぁんっ!」  大きく喘いだ正哉は、アナルビーズを抜かれた刺激で自分の手の中で陰茎が反応したのがわかった。本当に後孔で快感を得てしまっている。  白城の前で自慰をするようで恥ずかしかったが、言われた通り自分の手で陰茎を扱き始めた。その間にもアナルビーズをまた挿入され、前立腺を擦られる。陰茎と後孔の双方から責められ、正哉の腰は僅かに揺れていた。  「あぁ……気持ちいいです、白城さん……んあっ……」  目の前の枕に肘を付いて額を押し付け、腰だけ上げている状態になる正哉。ゆっくりとアナルビーズを出し入れされると開口部の摩擦にゾクゾクとした快感を感じる。陰茎を扱く手はだんだんと激しくなる。  「うあっ、あっ、イクッ! 俺、イッちゃう……!」  「イけよ、正哉」  「ああっ!」  正哉が射精し、勢いよく出た精液がバスタオルの上に飛び散った。今まで感じたことがないくらい強烈なオーガズムだった。  白城が後孔からアナルビーズを引っ張り出すと、正哉はまた小さく喘いだ。  「ひぅ、あ……」  「2回目なのにたくさん出たなぁ、マジで若いってすげぇ」  白城はそう言って笑う。正哉が身体を反転させてベッドに腰を下ろした。  その時、ベッドサイドにあった白城の携帯電話の着信音が鳴った。その当時は最新の機種であったカメラ機能を搭載した携帯電話だ。それを手に取り画面を見た白城は舌打ちして正哉に振り向く。  「正哉、シャワー行ってローション流してこいよ。気持ち悪いだろ?」  それは暗に部屋から出ろと言われているのだと直ぐに理解した正哉。はい、と返事をしてベッドを降り、小走りで部屋を出る。脱衣所に入ってドアを閉めると、部屋で白城が電話に出て話し始めた声が僅かに聞こえた。  話を聞いてはいけないのだろうと思い、正哉はシャワールームに入って水を出した。給湯器が古いのか、このシャワーはお湯になるのに少し時間がかかる。  正哉は深い溜め息を吐いた。どっと身体に疲れが襲ってくる。ここに来てからそう長い時間は経っていないはずだが、緊張の連続で精神にかなり負担がかかった。  お湯で身体のあちこちに付着したローションを流す。その温かさが心地良い。  ふと、シャワールームの鏡に写る自分の姿が目に入った。細く華奢な身体は少年のものだが、体毛は濃くなり始め、喉仏ははっきりと見え、かなり大人に近づいている。白城と初めて会った時とはまるで違う。  あとどれくらい、自分は彼に相手にしてもらえるのだろう。大人になった自分に価値はあるのだろうか────そんな不安が過った。そして同時に脳内を再び襲い来る「死ななければ」という言葉。  いつか白城に相手にしてもらえなくなるという不安は、正哉にとって耐え難い恐怖だった。いつまでも彼に抱き締められ、頭を撫でられていたい。  身体を洗い終わった正哉はお湯を止め、脱衣所からバスタオルを取った。居間から話し声は聞こえない。既に白城の電話は終わったようだ。  正哉は身体を拭き、脱衣所に置きっぱなしだった服を着てドアを開けた。  すると直ぐ目の前に白城が立っていて驚いた正哉。  「あ、電話終わったんですか?」  携帯電話を見ていた白城は顔を上げる。  「ああ。すまん、正哉……すぐ帰ってくれるか? 今から女が来るんだ」  「女……?」  「そう、彼女だ。あのブス、急今から来るとか言ってさ……帰り道、分かるか?」  彼女がいたのか、とか彼女に対して“ブス”とは最低な男だな、とか言われなくても勉強があるから早く帰るつもりだったとか、そういった言葉は全て飲み込んだ正哉。  「帰り道は分かります、大丈夫です」  「そうか、よかった。気をつけて帰れよ」  笑顔で白城がそう言うので、正哉も笑みを作って玄関に向かった。“気をつける”とは白城のような男に付いて行くなとということだろうか。  それじゃあ、と言おうとした正哉の服の袖を白城が掴んだ。  「お前ケータイって持ってないよな?」  「いえ、高校になるまでは買わないって親が……」  2000年、日本人の携帯電話の普及率は50パーセント近くなっていたが、中学生で持っている者はまだ少なかった。  「流石にそうだよな。なら、また来週のこれくらいの時間に来いよ。待ってるからさ」  「…………はい」  正哉は頷いて微笑んだ。来なかったらまたストーキングされるのだろうか、と思った。無論行くつもりではあるが。  「それじゃあ、また来週来ます」  「ああ、またな」  そして正哉は白城の家を出た。  部屋の中はエアコンが効いていたが、外はまだ暑い。少し前より日が短くなってきて、太陽は傾きかけている。  数歩歩くと、アパートの駐車場の隅に煙草を吸っている女性がいることに気づいた。女性は何故かこちらを凝視しており、目が合った正哉は会釈して早足で歩き出す。  セミロングの髪の若い女性。背は少し高めで、スラリとしていた。白城と同じアパートに住んでいるのだろう。何故こちらを見ていたのだろう、と少し怖くなりながら正哉はひたすら家までの道のりを歩いた。

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