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3章 3-1
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それから正哉は毎週のように白城の家に行き、セックスをした。週末正哉が出かけるのはいつものことだったので家族には何も心配されることはなかった。そして白城の家にいるのは精々2~3時間だったので、学業にも特に影響はなかった。
白城の陰茎を挿入されたのは3回目の時だった。1度目の後から自慰の時にも指を後孔に挿れるようになっていた正哉は、白城の陰茎をすんなりと受け入れた。
白城は毎回欠かさずにコンドームを使用し、正哉にも「もし俺以外とヤる時でも必ず使え」と言っていた。そんな“もし”の話はしてほしくなかった。
白城の彼女について正哉が問いただすことはなかった。彼女との用事があるから来週は来るなと言われることも度々あったが、それも仕方ないと思った。彼と自分のような関係を“セックスフレンド”と言うのだろうと理解していた。
白城とセックスをすると、満たされもしたし虚しくもなった。このままではきっと良くないと分かっていたが、彼とのセックスをやめられなかった。
正哉は白城に何も尋ねなかったので、彼が何の仕事をしているのかすらよく知らなかった。白城自身は、昔は正哉の母親、アンネッテが働いていた店でボーイをしていて、今はただのサラリーマンだと言っていた。その時正哉は初めてアンネッテが昔ピンクサロンで働いていたことを知った。
やがて正哉は中学校を卒業し、高校は偏差値70を超える進学校に入学した。それを正哉から伝えられた白城は、「あんな名門校に通ってる奴で毎週毎週ケツにちんこ挿れられて喘いでる男はお前だけだろうな」と笑った。その通りだと思った。
それから高校1年の2学期に入り、白城と出会って2年が経った頃。彼との関係は突然終わりを告げた。
土曜日、正哉はいつものように白城の部屋の前に来ていた。
高校入学の時に父親に携帯電話を買ってもらったので、白城とはメールでやりとりができるようになっていた。今週は時間を指定されていたのでその時間丁度にアパートに着き、ドアの横のチャイムを鳴らす。いつもなら直ぐに白城がドアを開けて入れてくれるのだが、どういうわけか彼はなかなか出てこなかった。
2回目のチャイムを鳴らしてしばらくしても出てこない。よく見るとドアに付いた郵便受けに赤いテープが貼られ、郵便物が入らないようになっている。
何か違和感を感じた正哉は携帯電話を開き、白城の番号に電話をしてみた。5コールほど鳴らしたところで、突然白城部屋の隣の部屋のドアが開く。驚いて正哉はつい電話の呼び出しを切った。
隣の部屋から顔を出したのは女性だった。黒髪をセミロングにした、背は高めで若い女性。何度かこのアパートの駐車場で煙草を吸っているのを見たことがある。
女性は正哉を見て目を丸くした。
「君……!」
「え?」
急に話しかけてきた彼女に、驚いて一歩後退る正哉。どうもいつも彼女には見られている気がしていて怖かった。
彼女は部屋から出てきてドアを閉めた。部屋着らしいタンクトップと半ズボンを着用している。
「君、この部屋の……白城さんに会いにきたの?」
「は、はい」
頷いた正哉に、女性は深くため息を吐く。
「彼なら死んだよ。今週の火曜日に」
「へ? 死んだ……?」
彼女は何を言っているのだろうと正哉は唖然とした。確かに彼と最後にメールをしたのは月曜日だった。今日の14時に来いという連絡があったきりだ。
それに正哉と白城の関係は2人だけの秘密だ。彼が死んだとて正哉にそれを知らせる者はいない。
無言のままの正哉に、女性は言う。
「火曜日の夜、この部屋にあの人の彼女が来てた。まああの2人にはよくあることだけど、何か言い合ってる声がした。でもあの夜はいつもより激しくて、取っ組み合いの喧嘩でもしてるのかって音がしたよ。暫くして静かになったと思ったら、突然彼女の方がうちに泣きながら押しかけてきた。“刺しちゃった、どうしよう”って、パニックみたいだったから家に上がらせてもらったら、あの人がお腹刺されて倒れてた」
「……殺されたって、ことですか?」
「そう。彼女にね。凄い血が出てて、直ぐに私が警察と救急車呼んだけど、助からなかった。彼女は当然捕まったよ。私も警察の事情聴取やら何やらで、ホント面倒くさかったんだから」
「何で……」
震える声で正哉は言った。彼女の話は嘘には聞こえなかった。そもそもただの白城の隣の部屋の住人である彼女が自分に嘘を吐いて何の得があるだろう。
「何でって、私は知らないけど……痴情のもつれってやつでしょ? 君が原因じゃないの?」
「俺が?」
「君、毎週毎週あの人とヤってたんでしょ? 声聞こえてたよ。大体死んだことも知らないなんて一体どういう関係なの?」
「…………!」
あまりの衝撃に絶句した正哉。自分のせいで白城が殺されたかも知れない。白城の彼女に自分と彼との関係がバレて喧嘩になり、彼は殺されたのか。実際にそうとは限らないが、その可能性はある。
「違う……俺、そんなつもりじゃ……」
正哉は小さく首を横に振る。頭が混乱し、目から勝手に涙が溢れ出してきた。
目の前の美しい少年が突然泣き出したので、女性も戸惑った表情になる。
「ちょ、ちょっと。落ち着いて」
「……いや、だって、こんな……」
「えーっと……、私は鈴木。鈴木真由(すずき まゆ)。君は?」
鈴木と名乗った女性がそう言いながら正哉の肩を叩くと、虚な目をしていた彼は漸く彼女を見る。
「……戸田、正哉」
「戸田君ね。戸田君は白城さんの親戚の子か何か?」
「違う……。白城さんは、えっと、……俺の母親の昔の彼氏で……」
それで、自分自身は彼の何だったのだろう。正哉はそれ以上何も言えなかった。
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