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3章 4-3
リョウがまだ小学生くらいだった時に、正哉は群馬の大学に通っていた。この2年間こんなことも知らずにいたなんて、リョウは何だか不思議な感じがした。
正哉も思わぬ偶然に笑顔を見せたが、また少し悄然とした表情に戻る。
「……私は君の好意には薄々気づいてたよ。でも君が白城さんに似てたから、どうしても切れずにいた」
「そんなに似てるか?」
「勿論、君の方がよっぽど良い子だよ。だって君は絶対に子供に手を出したりしないでしょ?」
「まあ、そりゃあそうだな」
リョウは元々どちからかといえば正哉のような年上が好みだ。未成年、ましてや小学生になんてまるで興味がない。
辛そうに自身の手を握りしめる正哉。記憶の中で、永遠に20代の若者である白城。リョウと同じで痩せた明るい髪色の青年。リョウと似た口調、似たファッションスタイル。
「全然違うって分かってても……君を手放すともう1度白城さんを失うような気がした。私は君自身を全く見てなかったのかも知れない、酷い人間だ。それでも君は私が好きかい?」
そう言う正哉の膝の上で握りしめられた手に、自分の手を重ねたリョウ。彼の過去を知って、彼がずっと自分に白城という男を重ねていたと知って、それでも彼が好きだろうか。そんなことは言うまでもない。
「好きだよ、マサさん。あんたが頭良くて顔も最高に良いのに、そういうちょっと壊れてるところあるのも含めてさ」
リョウの言葉に正哉の握りしめていた手の力が緩んだ。その指にリョウは自分の指を絡める。
「俺は全然、あんたに見合った人間じゃないと思う。だから昔あんたが好きだった人と重ねられてるからだとしても……俺を特別だと思ってくれてるなら嬉しいんだ。俺自身のことなんて、いつか……死ぬ前に1度でもちゃんと見てくれたら十分だ」
そう言ってリョウは笑い、正哉の目が潤んだ。
「でも……私はずっと1人の人と真面目に付き合ってこなかった。これからもそれはできないかもしれない」
「俺は好きな人が近くで幸せにしていてくれればいいんだ。そりゃ、いつか俺だけでいいって思ってくれたら嬉しいけどさ。マサさんがマサさんらしく生きててくれるのが1番だよ」
「リョウ君……」
正哉の唇を自分の唇で塞いだリョウ。僅かな日本酒の匂いが鼻腔を刺激した。何度も重ねた唇が今は少し特別な気がする。手を彼の背中に回すと、いつもより熱を強く感じたのは彼が薄着だからだろうか。
唇を離すと、正哉の濡れた琥珀色の瞳がこちらを見ていた。上半身に着けているのがタンクトップだけなので、上から見ると肩や鎖骨だけでなく胸元まで見える。
服の上から乳首に触れてみると、正哉の手がリョウの手を掴んだ。
「待って、リョウ君」
「あ、ごめん。やっぱ今日は駄目?」
今日のリョウは元々セックスしに来たのではないし、正哉も疲れた顔をしている。彼の色気につい手が出そうになってしまったがやはり駄目か、とリョウは思った。
苦笑して正哉が言う。
「次の土曜日、ここに祥哉さんが来るんだ」
突然そう言われ、怪訝そうな顔をするリョウ。彼は何故あんな男を家に上げる気でいるのだろう。
「……え? 何で?」
「今度は彼から逃げずに、ちゃんと決着を付けようと思うんだ。そのためにこの前妹ともちゃんと話した」
この部屋に来たリョウと同じように、正哉も何か覚悟を決めているようだ。
「う、うん」
「だからそれが終わったら、その時は君とセックスしたい。何度でも」
そう言って正哉は柔らかく微笑んだ。その彼の綺麗な笑顔にリョウはつい目を逸らす。じっと見ていたら勃起しそうだ。
「分かった……じゃあそれまで待ってる。本当に何度でもやるからな」
「楽しみにしてる」
正哉はリョウの背中に手を回し、痩せた彼の身体を抱き締めた。
「好きって言ってくれてありがとう。私もこれからの人生は君と共にありたい」
「マサさん……」
リョウの手も正哉の背中に回された。そして右手が正哉の黒髪を優しく撫でると、リョウは耳元で正哉が息を飲むのを感じた。彼の身体が僅かに震える。リョウを抱く腕に力が入る。
「……リョウ君、好き……」
「ああ、好きだ」
「ずっとそばにいて欲しい」
「勿論だ」
「好きなんだ……もう、私の前からいなくならないで」
「俺はいなくなったりしない」
「…………っ、リョウ君……」
震える正哉の頭を撫で続けるリョウ。抱き合っていると顔は見えないが、正哉は泣いているようだった。彼は幾人もの男と性行為をしてきただろうが、本当はずっとこうして欲しかっただけなのかも知れない。彼自身がそれを恐れていただけ。
その晩、リョウは正哉が泣き止むまでずっと彼の頭を撫でていた。
彼が泣き止み、再び笑顔を見て安心して彼の家を出たのは結局日付が変わる頃だった。
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