60 / 72
4章 3-2
正哉は息を切らしながらベッドサイドにあるウェットティッシュのケースを取った。
「たくさん出たね」
「マサさんもじゃん。いつから抜いてなかったの?」
「うーん、いつからだろ。あ、その手でシーツ触らないで」
正哉にウェットティッシュを差し出され、それで手と腹部を拭いたリョウ。今日はベッドにバスタオルを敷いていなかったので、神経質な彼はそれを気にしていたらしい。
「そういや、俺に歯磨かせなくてよかったのか?」
性交をする時はいつも正哉はリョウにシャワーを浴びさせ、歯を磨かせる。それをしてないのに彼が自分からキスしたりフェラチオしたりしてくるのは初めてだ。
正哉は自分の手と身体を拭きながら言う。
「よくはないよ。でも私が我慢できなかったから」
「へえ、可愛いとこあるじゃん」
「まあ煙草臭いけどね」
「えっ、そう?」
言いながらも今朝も煙草を吸っていたのだからキスをした時にわからないはずがないか、とリョウは思った。それが分かっていて襲って来るなんて正哉らしくもない。
「マサさんもセックスしたかったんだ。よかった」
今朝、絵里奈がいた時に彼にずっと拒否されていたので、リョウは彼がセックスしたくないのかと思っていた。あれはどうやら絵里奈がいたからというだけだったようだ。
ウェットティッシュをゴミ箱に捨てた正哉は、リョウの言葉に少し顔を赤らめていた。
「当然だよ。私もずっと待ってた」
「今からシャワー行って第2ラウンドする?」
「え、うーん。それもいいけどさ、お腹減らない?」
「お腹?」
リョウがスマートフォンの時計を確認すると、もう直ぐ13時になるところだった。確かに腹は減っている。
ベッドから降り、下着を履く正哉。
「ラーメン、食べに行かない? 駅前の」
「……いいのか?」
正哉からの申し出に、ついそう聞き返したリョウ。以前1度だけラーメン屋に行ってから、彼が食事に行く誘いに乗ってくれたことはなかった。それが彼から誘ってきてくれるなんて願ってもなかったことだ。
聞き返してきたリョウの明るい色に染めた髪を正哉が撫でる。
「いいに決まってるじゃない。君、私の恋人でしょ?」
「あ、うん……そうだな」
リョウはそう言って笑った。改めて恋人と言われると何だか不思議な感じがするし、まだセックスフレンドだった時の思考の癖は抜けそうにない。
自分の頭に置かれた彼の手を掴む。
「子供扱いはやめろよ」
「ん? 嫌だった?」
「嫌っていうか、恥ずかしい」
正哉の手を掴んだまま、リョウもベッドから降りた。そして彼を抱き寄せる。
「ありがと、誘ってくれて。すげぇ嬉しい」
「うん。服着て、早く行こ」
「ああ」
リョウは正哉を離して服を着ようとして、起きた時に既に脱がされていたボクサーパンツがどこなのか分からないことに気づいた。
「マサさん、俺のパンツは?」
「私が食べちゃった」
「いやそういう冗談はいいから。パンツないとラーメン食いに行けないから」
「パンツなくてもラーメン食べれるでしょ」
「絶対ファスナーにちんこ擦れて痛いだろ。てか下手したらファスナー上げる時に皮挟んで出血大サービスだろ」
「もーそこまで言うなら仕方ないなぁ」
正哉はそう言って自分のスラックスのポケットからリョウのボクサーパンツを出して彼に差し出した。
「はい」
「え、何で盗もうとしてんの?」
「バナナ柄のパンツ可愛いなって思って」
「マサさんそんなことする人だったのか」
そう言いつつ水色の生地にバナナ柄が入ったボクサーパンツを受け取ったリョウ。寝ているところをフェラチオしてきたり下着を盗もうとしたり、今日は初めて見る正哉ばかりだ。逆にこれまでの自分は彼を何も知らなかったのだろう。
リョウも正哉も服を着て、2人で揃って家を出た。初夏の晴れた日中。高い気温の中、2人は並んで歩く。
これまで2年間の身体の付き合いはあったが、お互いを知っていくのはきっと、まだこれからなのだ。
ともだちにシェアしよう!