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4章 5-1

5  病室のベッドに腰掛けた祥哉は、じっと窓の外を見ていた。頭には白い包帯を巻いている。日光が彼の黒髪と白い肌、琥珀色の瞳を照らす。  病室には他に4つベッドがあり、隣のベッドの老人のところには見舞いに来ているらしい中年の女性がいた。他の2つのベッドの患者は大人しく横になっている。  病室に入り祥哉に近寄る正哉。それに気づいた祥哉は振り向き、口元に笑みを浮かべた。  「正哉さん、本当に来てくれたんだ」  「やあ、元気そうだね」  正哉が祥哉のすぐ隣まで来る。嬉しそうな顔をしていた祥哉だが、正哉の後ろを付いて来た背の高い男を見上げて明らかに表情を曇らせる。  「……何でセフレ連れてるの?」  あまりにも直球な質問に、正哉もその後ろの男、リョウも吹き出した。  「あははっ。祥哉さん、セフレじゃないんだよ。今は恋人」  笑いながらそう言った正哉に、ますます顔を曇らせた祥哉。ひとしきり2人が笑い終えると、口を開く。  「その人、僕のこと正哉さんの代わりにしようとしてたけど?」  「知ってるよ。でも君、リョウ君とできなかったんでしょ?」  「好きでもない人とできる方がおかしいよ」  祥哉の言葉に正哉とリョウは顔を見合わせ、また笑った。確かに彼の言うことは正しいのだろうが、2人のこれまでの生き方にそれは全く当てはまらない。  何がそんなにおかしいのかよく分からない祥哉は怪訝そうな顔で2人を見上げる。  「病院では静かに、ね。2人とも」  そう言われて口元を手で覆う正哉。  「ああ、ごめんごめん。君があまりにも素直だから」  「僕のせいなの? 大体、正哉さんが来ることは聞いてたけどリョウさんのことは連絡くれなかったよね」    スマートフォンでSNSのチャットのやり取りを確認しながらそう言った祥哉に、正哉が返答する。  「だって言ったら嫌がりそうだったし」  「当たり前だよ」  即答した祥哉の顔をリョウが背中を丸めて覗き込む。  「何で俺そんな嫌われてんの?」  「僕はあなたみたいな人に正哉さんに近づいてほしくなかったの」  リョウを睨みつけたそう言った祥哉に、正哉。  「リョウ君はいい子だよ」  「……それは、わかってる。だからリョウさんが正哉さんの恋人になったならむしろ良かったと思ってるよ」  「そうなの?」  「…………悔しいけどね」  そう言って膝の上で手を握りしめた祥哉。  「前に話した時、リョウさんがどれだけ正哉さんのこと想ってるかわかった。でも正直、正哉さんがリョウさんを選んだのは悔しい。僕だってそうなりたかった」  低く、どこか苦しそうに紡がれた彼の言葉。正哉が彼の右肩に手を置く。  「祥哉さんのことも大切だよ。兄弟なんだから」  そう言われた祥哉は俯いていた顔を上げ、正哉を見上げた。琥珀色の瞳が交わる。  「僕と向き合うって決められたのはリョウさんがいたから?」  「いや、君が本気で私にぶつかって来たからだと思うよ」  そう返答した正哉に、リョウも口を開く。  「俺がマサさんに想いを伝えられたのも、多分あんたのおかげだ。祥哉さん」  2人の言葉に、祥哉は目を見開いた。1度手元のスマートフォンに目を落とし、再び2人を見上げる。  「さっき、アンネッテさんからメッセージが来た。怪我は大丈夫かとか、今度また話したいとか……そんな内容だった。僕の連絡先をあの人に教えたのは正哉さん?」  「ああ、うん。嫌だった?」  正哉はもうアンネッテが祥哉に連絡を取っていたことに驚いた。彼女は頑張ってみるとは言っていたが、まさかこんなにすぐに行動に移せるとは思っていなかった。  祥哉は僅かに首を横に振る。  「嫌じゃないよ。でもちょっとびっくりした。あなたは普段アンネッテさんとあんまり話してないみたいだったから」  「うん、母さんと話せたのも君のおかげ」  「え……?」  祥哉は何故自分の行為がアンネッテにまで繋がったのか理解できないらしく、呆然と正哉の顔を見詰める。

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