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4章 6-3

 彼に逃げないように腰を掴まれ、中をかき混ぜるように腰を動かされ、痛いくらいの快感が身体を突き抜ける。縋るように目の前の枕を握りしめ、そこに顔を押し付けた。  「あぁあ……うあっ……」  「マサさん、そんなことしてたら枕汚すぞ?」  「ん、うるさ……ひ、んあっ!」  誰のせいだと思っているんだ、と正哉が言う前にリョウにピストン運動を始められてしまった。腰つきは激しく、既にラストスパートをかけられている。  体重をかけて奥を突かれる度に正哉は口から喘ぎ声を漏らす。リョウの片手に腰を固定されたままもう片方の掌で臀部を叩かれ、その痛みは快感となって腰に伝わる。  「あぐっ! ぅう、あんっ!」  「うっ、あ、イクッ!」  リョウが中で射精した瞬間、強烈な快感と共に眼前がホワイトアウトした正哉。リョウに拘束されていた腰を解放され、弛緩した身体をベッドに沈ませる。ずるりと中に入っていた陰茎が抜ける感覚がした。  「大丈夫?」  リョウのその言葉と共に白く染まっていた正哉の視界は元に戻ってきた。  「……大丈夫に、見えるの?」  低く掠れた声でそう返され、リョウは苦笑する。  「ごめん、やり過ぎた?」  「死ぬかと思った」  そう言ってうつ伏せになったまま正哉は枕に額を押し付けて呻く。オーガズムの感覚は全身に残っていて、達していないのにまだ何度も達しているような気さえする。  リョウはコンドームを外し、ゴミ箱に捨てた。脚を床に下ろしてベッドに座り、動かない正哉を横目で見る。  彼の臀部は何度か叩かれたせいで少し赤くなっている。それをリョウが撫でてみると、彼の身体はピクリと反応し、顔を上げる。  「やだ、触っちゃダメ」  「じゃあキスは?」  「……いいよ」  正哉が身体を反転させて仰向けになり、両腕を広げた。それを見て一瞬目を丸くしたリョウは、口元を綻ばせて彼の胸に飛び込んだ。そして彼の形の良い唇に自分の唇を深く重ねる。  今日、幾度口付けを交わしただろう。素肌を重ね、熱い舌を絡め、その呼吸を奪い合う。リョウはそこにセックス以上の繋がりを感じるのだ。  「なんか、マサさんとヤッた後にこんなことしてんの変な感じ」  唇を離したリョウは、正哉の腕に抱かれたままそう言った。これまではセックスした後はキスなんてせず、ほとんど会話もなかった。服を着て家を出るだけだった。  悲しげな笑みを見せる正哉。  「ごめんね。いつも直ぐ追い出して」  「いや、セフレだったんだから仕方ない」  「…………これからはちゃんと君と向き合うから」  「うん、俺も」  子供のように正哉の胸に額をすり寄せたリョウ。すると正哉は本当に親が子供にするかのように彼の頭を撫でた。  気恥ずかしいような、しかし心地良い感覚。リョウは正哉の胸の鼓動を聴きながら暫しその心地良さに浸っていた。こうしていることを自然に受け入れられてしまうくらいにはまだ自分は子供なのか、と感じた。  「俺、マサさんに見合うようなちゃんとした人間になりたい」  唐突にリョウがそう言い、正哉は彼を撫でていた手を止めた。  「私はちゃんとしてなんかいないし、リョウ君はいい子だよ?」  「そうじゃないんだ」  リョウは正哉の顔を見上げる。  「俺は今まで何1つとして頑張れてない。ずっと何もかもから逃げてきた」  「そう? でも君はまだ若いし、これから何だってできるよ」  「うん、だからこれからやるんだ」  そう言ったリョウは正哉の上から離れて再びベッドに座った。  「今度のオフ、ちょっと実家に行ってくる」  「実家? 群馬の?」  「ああ。そんで親に土下座してくる」  仰向けに寝たままの正哉は、リョウの言葉の意図がよく分からず唖然と彼を見上げる。彼は何か親に対して悪いことでもしたのだろうか。  「土下座?」  「俺、来年から専門学校通おうと思う。ちゃんと勉強して、ちゃんと就職する」  つまり親に専門学校に通う学費を出してもらうために土下座すると言っているのか、と正哉は漸く理解した。  都内の私大を卒業しておいてこれから専門学校に通おうとは、土下座しても学費を出してもらえるものなのだろうか。彼の両親がどんな人間でどれくらい金銭的な余裕があるのか正哉は知らないが、きっと自分の親なら無理だろうと思った。  「勉強したいことあるの?」  「ああ……俺、高校の時ほとんど勉強してなくて、大学はFランの文系入っちまったんだけどさ、元々理系でプログラミングとか興味あるんだよね」  「へー、それじゃあプログラマーになりたいってこと?」  上半身を起こしながらそう言った正哉に、リョウ。  「そうそう。だから来年までに金貯めて、バイト減らしても生活できるようにする」  「そっか。ちゃんと目標があるのは凄いね。お金、やばかったらいつでも言ってよ。ちょっとくらいなら手助けできるし」  まるで親になったような正哉の口ぶりに、リョウは苦笑した。  「いや、学費は親に頼むけどその他の金は自分でなんとかするさ」  「偉いね。でも無理しないでよ」  「なんか母さんみたいだな、マサさん」  「リョウ君は息子みたいなもんだし?」  「息子とセックスしてたらやばいだろ」  「あは、確かに」  そう言って笑う正哉の顔を見て、リョウは顔を僅かに赤らめた。セックス中の淫らな表情とも普段の無表情とも違う、彼の笑顔は美しいと改めて思った。  「俺……マサさんと出会わなかったらこんなこと考えてなかったと思う。ありがとうマサさん」  そう言ったリョウに、正哉は微笑したまま彼に抱きついた。  「私も君がちゃんと私と向き合ってくれて嬉しいよ。ありがとう」  「ああ」  密着する素肌の温かさに、リョウは両目を閉じた。これまでにこの温もりがこんなに心地良いと思ったことがあっただろうか。今まではこうしてじっくりお互いの体温を感じることもなかった。

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