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4章 6-4
暫くして正哉が離れ、リョウはゆっくりと目を開けた。
正哉は枕元に置いていたスマートフォンを手に取っていた。そのロック画面に表示された通知を見て少し眉を顰める。
「……忘れてた」
小さな声でそう呟いた正哉に、リョウは首を傾げる。
「どうしたの? マサさん」
「ん? あー……この前新宿でワンナイトした子がいてね、その子に連絡先教えてたの忘れてたなって思って」
「ふーん、その人から連絡来たの?」
「うん。バーで出会って流れでホテル行ったんだけど……気に入られちゃったみたいで。あ、ちゃんと断るよ」
正哉はそう言ってわざとらしく肩をすくめる。その男のことも切るつもりらしい。
別に本気の相手ではないのならわざわざ切ってくれなくてもいいのだが、思うリョウ。しかしそれを言うのも恋人としてはおかしいだろう。
「マサさんってゲイバー行くこととかあるんだ。意外」
とりあえずそう返すと、正哉は1つ溜め息を吐いた。表情が先程より暗くなり、スマートフォンの画面に視線を落とす。
「普段は行かないよ。その時は祥哉さんと絵里奈のことで色々悩んでて……気晴らし? みたいな」
「ああ、なるほど。ちなみに何てバー行ったの?」
「何ていったかな。あんまり有名じゃないところだよ。ローアンドロー……だったかな」
何だか馬鹿みたいな覚え易い名前。リョウはそれに聞き覚えがあり、目を丸くした。
「え、マジ? 昔セフレとよく一緒に行ってたところだ」
「そうなんだ。偶然だね」
リョウの脳中に懐かしさが込み上げてきた。2年前まではよく通っていた小さな店で、疫病が流行った際に潰れなかったのが不思議なくらいだった。ゲイバーというよりはミックスバーに近く、女性がいることもあった。
常連客の男達と、自分のセックスフレンドだった青年。もう顔もよく覚えていない者ばかりだが、あそこで彼等と騒いでいる時間は非日常のようで、楽しかったことは覚えている。
「そうだな。あ、でもそのセフレはマサさんに会ってからすぐ切ったんだよね」
「ふーん、どんな子だったの?」
「3つくらい年上の、本当に誰とでもヤる奴だったよ。まだ生きてんのかな。ちっちゃくてめちゃくちゃたくさんピアス付けてて、年上なのに子供みたいだった」
リョウの説明に、1度スマートフォンの画面を見て、神妙な表情で再び彼に視線を戻した正哉。
「…………シュウって名乗ってなかった?」
「え?」
リョウはまた目を丸くする。正哉が口にした名前は懐かしい響きだった。
小柄で痩せていて、よく動く表情とたくさんのピアスが印象的だった青年。リョウの過去のセックスフレンドの1人、シュウ。
「え、もしかして今連絡来たのって……」
「うん、シュウ君だよ。小柄な若い子。リバで顔が良ければ誰とでもヤるって言ってた」
「……顔が良ければに俺が含まれるならかなり判定ガバいな」
「そうだね」
「うわ、そこは否定しろよ」
リョウは苦笑し、正哉はニコニコとしている。
リョウの顔は特別良くも悪くもないのだが、正哉はあまりセックスする相手の顔を気にしていない。
「本当に私らが言ってるのが同じシュウ君なら凄い偶然だね」
「何気にこの界隈って狭いからなぁ。まあ、シュウもリョウもマサも吐いて捨てるくらいいる名前だけど」
「確かにね」
「てかあいつ、まだフラフラしてんのか。今もあのゴツいピアスたくさん付けてんの?」
「いや、穴はたくさん空いてたけど1つもピアスは付けてなかったよ」
「そうなのか。そこは変わったんだな」
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