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4章 6-5

 リョウがシュウとつるんでいた頃はあのピアスホールが全て埋まっていたのか、と想像した正哉は僅かに眉を眉間に寄せた。そんな彼に、リョウ。  「あいつのことも切るのか?」  「うん……いい子みたいだったけど、ちょっと強引なところもある子だったし、セックス抜きの友達にはなれそうもないからねぇ」  「確かに強引っていうか、相手を振り回すタイプだよな。そんじゃあ俺も混ぜて3Pならいいよって返しとけよ」  リョウが真顔でそう返すと、正哉は呆れたように笑った。  「君、祥哉さんにも3P持ち掛けてたけどそんなに3Pしたいの?」  「やったことないから興味あって」  そう言ったリョウに何故か笑みを決して表情を曇らせた正哉。  「やったことないんだ。ならシュウ君はちょうどいいかもね。リバだしそういうの抵抗なさそう」  「もしかして俺、憐れまれてる?」  「まさか3Pしたことないとは思わなくて」  「割と普通ってことだ」  そう言いながらもリョウは正哉にとっての「普通」は3Pをしたことがある方のことなのかも知れないと頭の片隅で考えた。14歳からアナルセックスなんてしていれば常識も歪む。  正哉はスマートフォンの画面に視線を戻す。  「まあ、今返さなくてもいいか。後で気が向いたら返信してあげよ。そんなことよりリョウ君、今日泊まっていくの?」  そう言いながら正哉はベッドから降りて立ち上がり、テーブルにスマートフォンを置いた。彼を見上げるベッドに座ったままのリョウ。  「ん? 泊まっていいのか?」  「私明日仕事だから早く寝るけど、それでもいいならいいよ」  正哉はそう言ってウェットティッシュを手に取り、ローションと精液でベトベトになった下半身を吹く。リョウもウェットティッシュを取りながら唇の端を上げた。  「おう、寝るまでにもう1回はできるな」  「君まだ出せるの?」  「夕飯食ったら多分イケる」  ウェットティッシュで股間を拭きながら何故か自信有り気にそう言うリョウに、呆れた顔をする正哉。  「食べたものはすぐ精巣に行かないよ」  「俺は行くの。てかマサさんが相手ならいくらでもできるし」  そんな超理論を口にしつつ、ウェットティッシュを捨てて服を着始めるリョウ。その姿に正哉は口元を緩めた。  ────お前が相手だと何回でもヤりたくなっちまう。  ふと、正哉の脳裏に男の声が響いた。リョウに似た、明るい髪色の痩せた男。否、リョウが彼に似ているのだ。  そう思った瞬間、正哉の口元から笑みが消えた。自分も服を着ようとしてした手が止まる。  この期に及んでまだ自分はあの男を、あの性犯罪者を求めているのだろうか。21年も前に殺されたあの男にリョウを重ねているのか。  今の自分にはちゃんと自分と向き合ってくれる恋人がいて、家族がいる。もうあの男に必要とされる必要なんて無いのではないのか。  ベッドから立ち上がって服を着たリョウは、下着を手にしたまま静止して宙を眺めている正哉を不思議そうに見た。  「どうした? マサさん」  声をかけると、茫々としていた正哉はハッとしてリョウを見上げる。  「……ごめん、リョウ君」  「ん?」  「私は、まだ君を白城さんに重ねてるみたいだ。……君はちゃんと私を見てくれてるのに」  そう言う正哉に、何だそんなことか、とリョウは笑った。そして正哉の肩に手を置く。  「今のマサさんは何年もかけて作り上げてきたマサさんだろ。白城さんって人への想いも、ずっと積み上げてきたもののはずだ。それを突然変えようなんて無理だよ」  「でも、それじゃあ君に申し訳ない」  「俺はそれでいいって、前に言ったろ? マサさんが近くで幸せにしててくれればいいんだって」  そしてリョウは正哉の肩に置いていた手を背中に回し、彼を抱き寄せた。  「大丈夫、ちょっとずつ変えて行こう。俺もちょっとずつマサさんに見合う人間になるからさ」  そう言われた正哉は、自分の片手をリョウの背中に回した。その手は少し震えていて、抱く力は弱い。  「……そうだね。焦らずに、一歩ずつ進めよう」  「ああ、好きだよマサさん」  「うん。私も君が好きだよ」  2人は目を瞑り、暫しそのまま抱き合っていた。お互いの鼓動を感じ、心を通わせる。  どんなに変わりたくても突然は変えられない部分は誰にでもある。それは思考の癖であり、呪いのようなもので、長年かけて蓄積されてきたものはそうそう容易く崩れない。  それでも一歩を踏み出そうと2人は、そして正哉の家族達は決めたのだ。  7月の日は長い。閉じたカーテンの隙間から落ちた、夕陽の光が2人を照らしていた。

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