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やってやるよ
つまり、働きもしないで家にいるだけの息子なんて養う価値もないってことだ。
ずいぶんな御言葉じゃないですか。
まさか、そこまでハッキリ言い切られてしまうとは思っていなかったけど、父さんがずっと前から俺の生き方に賛成していないことは、承知していた。
『プラネット』初代社長の曽祖父──父さんにとっては祖父に当たる人だけど、父さんは曽祖父のことをめちゃくちゃ尊敬していたし憧れてもいた。
だから中学に上がった頃には、もう既に自分の進路を決めていたし、学校に通いながら仕事を覚える準備を少しずつ始めてもいた。
この話は、2代目社長の祖父──父さんにとっては父親に当たる人だけど、俺は幼い頃に祖父から父さんの話を聞かされて育った。誇らしげに自分の息子の話をする姿を何度も目にしてきた。
いま思うと、祖父は俺にも父さんのように立派育ってほしかったんだろう。
俺だって『プラネット』は家族で守っていくべき大切な会社だってわかっているし、いつか俺も父さんに誇ってもらえる息子になれる日がくるのかなって、約束された未来を夢見てピヨピヨしていた時期もあったわけで……。
なんてったって、人生イージーモード。
食べるものも着る服も生まれた時から目の前にはいつも最善の選択が用意されていて、俺は迷わずそれを選ぶだけで間違いなかったんだから、こんな簡単なことはない。
だけど、たまには高級なコース料理よりも手頃なジャンクフードを食べたい時だってあるし、部屋着でコンビニに行きたい時だってある。
別に、最善の選択をしてきた父さんの生き方を否定しているわけじゃない。
俺が父さんのようには生きれなかっただけ。目の前に用意されたレールにただ乗っかるだけの人生なんて、つまらないって思っちゃっただけ。
単純に、それだけの話。
やりたいことを自分の仕事にして見事に成功させた曽祖父なら俺の気持ちをわかってくれたんじゃないかって思う反面、今度代々受け継がれていくかもしれない榮月家の逃れようのない縛りを作り出したのも曽祖父なわけで……。
なんていうか、鬱。
今はまだ、何も考えたくない。
俺の話を聞こうともしない父さんに「おまえのためだ」とか言われても、ただただムカつくだけだし、やり方も強引で気に入らない。
父さんにしてみれば、20歳になっても好きなことをして生きているだけの俺なんて、わがまま息子に見えているんだろうけど……。
「遊星、私は本気だ」
俺だって本気で嫌だ。
どうせ俺のことを融通の効かないダメ息子だと思っているんだろうけど、父さんもなかなかの頑固者だと思う。
こっちは、たとえ小遣いや援助が絶たれたってしばらくは余裕で生きていけるだけの俺名義の預金があるし、正直何も困らない。
けど、問題はそこじゃない。
家族であっても見下されたりバカにされたりするのはあまり良い気分がしない。このままダメ息子として扱われるのもなんか癪に障る。
……。
俺は少し宙を見つめながら考えたふりをして見せてから、一つの覚悟を決めて父さんを真っ直ぐ見つめた。
「…わかったよ、やるよ」
こうだと決めたら絶対に自分の意見を曲げない父さんのことだから、俺が折れない限り話は平行線のままに決まっている。
それはダルすぎる。
だったらバイトだか新人だか知らないけど、言われた仕事を完璧にこなして石頭な父さんを見返してやるのも一つの手なのでは……。
あくまでも従うのではなく、俺は俺の生き方を認めてもらうために動く。それがどんな結果になろうと二度と文句なんか言わせない。
「遊星、よく言った。今あそこは一番働きがいのある店のはずだ。精いっぱいやれ!」
満足そうに頷いた父さんはデスクの引き出しから葉巻を手に取った。煙草じゃなくて葉巻を吸う時は、良いことがあったり嬉しかったりした時の特別な習慣だったりする。
気分の良さそうな父さんを見ていたら、なんだか上手く丸め込まれたような気がしなくもなかったが、目の前で宣言したからにはもう後には引けない。
その気になればできる息子なんだってことを、この機会に思い知らせてやることにした。
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