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第4話

「身体、おっも…………あれ?」  朝を迎えてようやく目覚めた春川くんは、頭が回り出すと同時に、図々しくも上に乗っかって寝ている正に動物のような物体を反射的に突き飛ばした。 「あ、いててて……ふあぁ、春川くん。おはよう」 「えっ!? 嘘っ!? おおお俺、な、なんで熊野課長と同じベッドに……!?」  春川くんは己の真っ先にはだけたシャツ、身体全体、特に股間を見やった。やっぱり百パーセント勘違いされている。 「ちょ、わわっ、な、何もしてないから! 春川くんが潰れちゃってここに運んだだけだから! 本当だよ!」 「マジなんですか、ちゃんと順を追って説明し……。ぅ、頭……いってぇ……割れそう……」  春川くんも混乱しているが、重ねて二日酔いの症状が表れたようだ。 「……えと、先にシャワー浴びてくるね……も、もし、僕に変なことされたって疑うなら、その間に確認するといいよ……」  それだけ言って、なにか責められる前に逃げるようにしてシャワーを浴びに行った。そういえば僕も昨夜は身動きのできない状態で寝たせいで汗臭いし。  蛇口を捻って温水を浴びながらも、春川くんの声は聴こえてこない。途端に怒声でも上げられたらどうしようかとハラハラしていたが、その心配はなさそうだ……。  最低限の身体を清めてユニットバスから出る。あのまま泊まってしまったのでスーツも同じ。  ただ、案の定肌を確認する為かシャツを腹まで捲ったり、その意味は充分すぎるほどわかるが……ズボンを上げてベルトを締め終わったところを春川くんに、恐る恐る声をかけようとする。 「どわあああっ!! す、すいません! その……昨夜のこと、断片的には覚えてるっす。必死にここに連れて来てもらったってのに……なんか自分でもわかんないけど俺が課長を抱き枕みたいにして寝てたこととか……。と、とにかく全面的に俺が悪いんであって課長は何もしてません」 「そ、そう!? 信じてもらえて良かった……のかな」 「むしろ……俺の方が、変なこと口走ったりしてませんでしたか。その辺はあんま覚えてなくて……迷惑かけてたら申し訳ないなって……」  覚えててほしかったような、でもそれじゃあ今後の関係に影響が出るから覚えてなくていいような。  かなり自棄的な発言もしていたけれど……相手がおらず溜まってるのは本当だろうか。風俗に行ったり、自慰に耽ったりはしないのだろうか。想像でしかないが、春川くんはそういうことについては否定的な男である気がする。  交わるならば将来も考えられるような、大切で好きな人と。一人で性を発散しても、虚しくてさらに悶々とする。そんな性格であると勝手にしている。 「い、いいや。何も言ってなかったよ。というより、寝言なのかな? ムニャムニャ言っててよくわからなかった」 「そっすか……」  それだけは嘘を付いた。けど、言ったところでそれこそ信じてもらえない。  同性の上司に「自分が好きなのか」と聞いてきたこととか、「性的なことをしてもいい」と衝撃発言をしたこととか。  もし僕がノンケなら、やっぱり怪しい薬でも盛られて貞操を汚されたんじゃないかと疑うかもしれない。一切の疑問も抱かず信用してくれるなんてどれだけマシなことか。  そもそも僕だって何をこんなにビクビクしているんだ? 相手は酔っ払いだったのだから、最初から寝言って可能性もある。  春川くんに限って、僕なんかに興味があるはずがないんだから。 「はっ!? もうすぐ出勤時間だよ!? 会社から近いとはいえ早く準備しないと!」  僕が急かす形で春川くんもシャワーを浴びて、アルコールと汗の体臭を洗い流してきた。スーツ類は互いに衣類消臭剤を全身に振りかけまくってことなきを得た。  ニュースをチェックしながらゆっくり食事をする暇もなく、久々に慌ただしい朝だった。

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