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第4話
芸能界引退はさすがにやっとのことで掴んだ生活であるし、必要とされる限りはまだまだ居させてもらわなくては困る。
けれど後輩の靴を舐めるなんて屈辱的な行為は……行為は……。
「そ……そんなことでいいの?」
「は?」
「いや、だからね、僕が咲夜くんの靴を舐めるって」
「な……。それは……言ってみたかっただけというか……いやいやいや、いくらなんでもっ、普通そこまで言われたら怒るだろ!?」
「え……舐めさせてくれないの……」
本来脅しているはずの咲夜の方が、寂しげな佐古を見て冷や汗をかいて完全に引いているのがわかった。
「っき……気持ち悪い……やっぱり気持ち悪い! このっ、どけよ!」
「ちょ、ちょっと待って、舐めて咲夜くんの気が済むなら全然大丈夫だよ? やるよ? というかやらせてほしいくらい。ほらっ、足出して」
「うわあああ! 離せ変態!!」
何故か形勢逆転している二人。
咲夜の方はただ嫌味なだけだったようだが、佐古は生粋のマゾヒスト。誰かと恋愛できることならひたすら責めてもらいたい方だった。
少し蹴られてもそれがまた快感で、傍から見ればまるで親父狩りの図。
さすがにパイプ椅子が倒れたり大きな物音がしたので騒ぎが聞こえてしまったか、数人のスタッフが突入してくる。
「さ、佐古さんと氷崎さん? 何してるんですか?」
「おいどういうことだ……? まさか氷崎、佐古に喧嘩でも売ったのか!? 自分だけ燻ってるからって共演者に八つ当たりはもう皆飽き飽きしてるんだよ! いい加減にしろ!」
スタッフ達の顔が引きつり、あるいは青ざめ、あるいは鬼の形相になっている。
まずい。非常にまずい。元はと言えば煽ってきた咲夜のせいだけど、それに乗った自分も悪い。
だって今の体勢は、完全に咲夜が佐古に土下座を強要しているような構図にしか見えないのだから。
「ち、違いますって皆さん。やだなぁもう、ほら……咲夜くん、武道経験者じゃない。だから姿勢の角度とかを細かく見てもらってたところで……ねっ?」
「えっ!? ……あ、は、はい。佐古さん今度そういう役あるから本当は内密にって……それで俺にできることなら……って……」
かなり苦しい言い訳だったけれど、咲夜もここで本格的に出禁にでもされるのは痛いだろう。上手いこと作り話に乗ってくれた。
スタッフは咲夜よりも佐古に免じて、という形でお咎めなしにしてくれた。でも、もし今後また何か問題があるようなら、やっぱり咲夜の処遇は考えなければならない……と、帰り際にポツリと言われた。
「あのさ……咲夜くんが嫌じゃなければ飲み行こっか」
「は? なんで?」
「なんかさ……僕も咲夜くんと結構長いこと共演してるのに、しっかり向き合えてなかったかなって。一度で良いからおじさんの頼みを聞いてくれよ……」
「ザコさんの奢り?」
「そ、そりゃあもちろん」
「…………フン、まあ奢りならいいか」
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