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第7話
「ひひぃ!? ま、また録音とか盗撮とかしてないよね……?」
「してない」
「酔いが醒めてないんじゃ……」
「もう酔ってない」
その証拠とばかりに、水を飲み干した咲夜はペットボトルを部屋のゴミ箱にナイスシューティング。
「正直俺、仕事とかどうでもいい。佐古さんにもう会えなくなるのが嫌でヒーロー続けてた。ケチ付けて現場にも行ってた。なのに大衆と来たら俺の私生活も監視して、俺達を引き裂くようなことばっかり……。ふざけんなよ、異性の共演者同士なら熱愛や結婚しても肯定的な世界っておかしいだろ」
言葉こそ棘はあるものの、やっぱり……ちょっと落ち込んだ語気で。
ようやく本気なんだ、って感じ取ることができた。彼の真意を知れた。
「咲夜、くんて……僕のこと……嫌いじゃないの?」
「嫌いだよ! 俺の気持ち全然気付かないところとか特に大嫌いだ! でも……いつも楽しそうに演技してる姿を見たら、俺まで当時を思い出すほど夢と希望で溢れてるあんたを見たらっ……好きになるだろ……っ」
ものすごく矛盾した告白。
でも嬉しかった。そう必死になって言う咲夜は酒とは違う意味で顔を赤らめ、汗をかいてまで本音をぶつけてくれている。
第三者からは自分の演技はそう見えていたのか……と、恥ずかしいほどに褒めてくれている。
「なぁ佐古さん……あんた男相手でもイケるんだよな?」
ふと身体を押され、壁に背が当たると同時に、咲夜の片手が佐古の顔の真横に叩き付けられた。俗に言う壁ドンというやつだ。
咲夜の唇が近付く。嫌な訳ではないのだが、脊髄反射でハッと顔を背ける。
「ちょっと待って! 咲夜くんは……そういう経験ある? 本当に……僕相手で大丈夫なの?」
「なんだよ、今さら何にも知らない乙女じゃあるまい……。仕事なさすぎて一時はホモのお偉いさんと枕とかも考えたくらいなんだぞ」
「ま、枕っ!?」
「いや、年齢的にもやっぱ需要ないかなと思って踏み止まったんだけどさ」
そういう問題じゃないと思う。
「まあ冷静に考えたらそんなことでゴリ押ししてもらっても気持ち悪いし、たぶん自分が許せないし。なら少なくても貰った仕事を全力でやりたいし」
「う、うん……それが良いよ。良いに決まってる」
やっぱりプロ意識は一丁前にあるみたいだ。何故だか一安心する。
これ以上に変な気を起こされたらたまったものでは……いや、迫られている今も佐古からすれば正気の沙汰ではないのだけれど。
「……いつまで顔背けてるんだよ。俺とキスしたくないってか? はぁ? ぶっちゃけ顔面偏差値だけで言えばメンバーよりここ十年のヒーロー達よりずば抜けてる俺が誘ってやってるんだぞ?」
お得意のわがままナルシストぶりが炸裂するが、言いたいことは充分にわかる。
本当にそう。眩しすぎて直視できない。
「……そう。マジで嫌なのか。……それとも俺みたいな根性ひん曲がった男よりピュアな方がタイプ? あーそうだよな、演技初めてで凹んでるゲストとばっかつるんでたもんな」
またすぐ拗ねる。拗ねているところは、なんだか好きな子ほどいじめてしまって後味悪くなっている少年みたいで可愛い。
「ちがっ、あの、ただびっくりして、緊張して……。僕なんかが咲夜くんとそういうことできるなんて……光栄だよ」
「そりゃあ俺は特別だからな。その辺の男と一緒にしてほしくないね」
「もちろん! だって僕、最初に配役が決まった時点で咲夜くんが一番タイプだったし」
「っ……!」
咲夜の肩がびくりと震える。
「……あの頃俺のことどう思ってた?」
「ああ……美形の上に何でもこなせちゃうから、僕には手の届かない異世界の人みたいだなって」
「そうじゃなくて! 男として……好きか嫌いなら……」
「いや、好きでしょ。そりゃあ」
「今も? ファン的な気持ちじゃなくて?」
「うん。咲夜くんは誰よりも人間らしくて最高だよ」
「両想い?」
「……咲夜くんも告白してくれたから、そういうことになる?」
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