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第12話

「なぁ、佐古さん覚えてる? シャイニングの中盤、スイセイヤーが不当解雇されそうになったラスボスのパワハラ回」 「ああ! もちろん。あれすごい反響だったよね。いつもよりシャイニングの皆と一緒だったから、楽しい撮影だったなぁ」 「マジで!? 脚本家キメてるだろ、とか言われてたよな! あと宇宙弁護団と検察の『異議あり!』って一度は言いたい台詞バトルとかさぁ」 「もー、なんて惨めな役演らされてるんだろうって、むしろ途中から僕も面白くて、ノリノリになっちゃったけどね」 「だろだろ? しかもスイセイヤーの相談先が真っ先に青志狼んとこでさぁ……青志狼もクールだから最初全然信じなくて、何かにつけて変身しようとして。でも結局、アジトに『拾って来た』のは青志狼なんだよな。レッドの理陽音(りおん)は情に熱いから、これ弁護士ドラマか? くらい全員真剣に話聞いてくれてさ。カットかかるごとに皆吹き出してたよなぁ」 「……咲夜くん、なんでそんなに昨日のことみたいに話せるの? いや、僕にとっても大事な作品だけど、当時はとにかく忙しくて実際そんなに細かくは……」 「はあぁ!? 今時サブスクとかで観ろよ! 俺は各エピソードの見所はもちろん、自分や他人の台詞も未だに一言一句間違わずに言えるぞ!」 「…………なるほど、暇な時間をそうして有効活用していた訳ね」 「ひ、暇じゃねぇ! いつまたオファー来るかわからねぇんだから当時の振り返りと今後を見据えて演技の反省くらいしておきたいんだよ」  その真面目すぎて空回りしてるところ、もっと表に出せばいいのに……。  もう各方面に許可取って、個人で主題歌の歌ってみたや踊ってみた、もはや変身してみた動画出すとか、ゴリゴリにシャイニング営業しても文句はない。  それなら喜んで出演するし、他のメンバーだって賛成してくれるはず。  一人用のベッドに縮こまるようにしている佐古に、咲夜が聞いたこともないような優しく、穏やかな声色で耳打ちした。 「……あのさ。これは俺らだけが知ってる話。オーディション受かったあんた、俺達より嬉しそうにもほどがあるもんだから、ぶっちゃけ皆手放しで喜べなかったんだぜ。今となっては笑い話だけどさ」 「そ、そうなんだ……僕の知らないところで迷惑かけたなら申し訳ないな……僕もようやく掴んだ役だったから、年甲斐もなくはしゃぎすぎたかも……」 「……ううん。そんな佐古さんが居たから全員やって来れたんだと思う。俺、シャイニングで……輝井青志狼で……シリウスブルーが演れて良かったな」  しみじみと発光Tシャツを見つめながら、咲夜はさながらシリウス──大きな犬のように佐古を抱き締めた。 「佐古さん……好き。すげぇ……好き……」 「うん……僕もだよ咲夜くん。……咲夜くん?」  身体の関係をも結んで、ようやく対等に話せると考えていた佐古だったが。  朝から現場で一悶着あり。夜は飲酒をし、性的な行為をし、疲れないはずがない。身体の自由を奪われたまま、寝落ちした咲夜によって朝を迎えるのを待つ他なかった。  しかし佐古も、天井に映ったTシャツを見て、自身の原点となった作品に想いを深めていた。  咲夜がこんなにまでして愛している作品を生涯愛そう。どんなちっぽけな役でも、初心に戻って一生懸命こなそう。  そして咲夜をもっと上の役者に、皆に好かれるヒーローになれるよう……脳内作戦会議だ。

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