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12 引き続きサボタージュ

 奈智(なち)はとても急いでいた。  その為、全力疾走で目的地にまで向かっていたので、一人目の友人の声に気付かなかった。 「なーち、そんなに慌ててどうした?」  二人目の友人に強制的に腰を抱かれ、前のめりになった。  ……っなかみ、出そう。 「っげほっ……副かいちょ、こそ、どうした、の?」 「ん? これ? せっかく学祭だから、着てって渡された。何がせっかくだか」  見れば、女生徒のはずの生徒会副会長が本校の学ランを着ていた。  まぁ、似合ってはいるが。 「急ぐのは別に構わないけど、気をつけな。走ってても当たると、多分奈智の方が弾き飛ばされる」  ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。 「そうだなー、奈智は軽いから」  のしっと奈智に伸し掛かってきたのは、生徒会会長。声からして、行動からして。 「おもいぃー……!」  そして、自分はそこまでヤワではないつもりだ。 「俺を無視した罰。さっき呼んだの、気付かなかっただろ」 「……ごめん」  まぁ、いいけどねーと彼は解放してくれた。 「ほら、行っとい」 「なぁーちぃー!!」 「っげほっごほっ……」  立て続けに腹部に衝撃を感じ、奈智は咳き込んだ。ついでに受け止めきれず、ひっ転ぶ。  快方に向かっているが、ついこの間潰瘍をやったところなのだが……。 「……なんで、沙和(さわ)がここに居るの」 「奈智のガッコの学祭に来たに決まってるじゃんー」  自分を押し倒している双子の弟に奈智は溜め息を吐いた。  今まで急いでいたのが、全て水の泡である。できるだけ人目の付かない内に、沙和を学校の敷地内から出したかったのに。  沙和が関わると、何かしら起こる。良くも、悪くも。  奈智は平穏なる学園生活を送りたいだけなのに。その為、沙和や多聴をはじめとする家族には、学園祭の事を伝えていなかったのだ。  会長や副会長ほどでも無いにしろ、美人とそれなりに学校内で有名な奈智と同じ顔が違う色気を振りまいて各教室を練り歩いているのは既に噂になっていた。当人達は知らないが。 「おお、そっくり」 「奈智って双子だったんだ?」 「えーっ、俺って知られてないのー? なんでー?」 「言ってないから。沙和、離れて。俺は多聴兄じゃないよ」 「多聴兄ぃはあっちで煙草吸ってるー」  隣接する公園の方向を示した。学校敷地内では禁煙である。  不満げに口を尖らせた沙和に対して、奈智は少し肩の力を抜いた。そして、沙和の後ろにいる人物にギョッとする。  堀ちゃん先輩だ。  ──何故? 「っ、えっと、あの……?」 「堀ちゃん先輩も誘ったー」  ……なんて事をしてくれたんだ、沙和。  ここのところ、彼に会うときは面倒ごとの時だけで、迷惑を掛け通しである。  申し訳なさしかない。 「沙和。いい加減、奈智から退いてやれ」 「はーい」  伸し掛かっていた重さが無くなる。堀ちゃん先輩に手を引かれて、やっと身体を起こす事ができた。  ──あれ?  引かれた手はそのままに、奈智は堀ちゃん先輩の顔をじっと見上げた。 「? どうした、奈智」 「気のせいかもしれないですが、何かありました?」  相手が声も無く瞠目したことで、奈智は直感を確信へと変えた。 「──これ、良ければ食べてください。少しは気分が変わるかもしれません」  その広い手に飴玉を一包み乗せる。  自分が聞いてもいいことか、そうでないことかは解らない。ただ、今までお世話になっている分、彼の気がかりが軽くなれば。そう思って奈智は微笑んだ。 「っ奈智ってば、やさしすぎー! 堀ちゃん先輩はほっといて、案内してよー!」  いい子いい子、と頭を撫でられつつ、ずっしりと重さが乗る。そして、ずりずりと引き摺られる。  その後ろで会長と副会長が意味深に視線を交わしていることも知らず。 「……まったく、沙和は強引なんだから」   溜め息を吐いて、奈智は結局沙和に付き合って学祭を巡った。 今までフリーだとされていた生徒会書記に恋人がいるらしいとの噂が飛び交うのは、それからすぐの事。

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