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番外 コエ
「……ぁ」
「ん?」
知らず零れた雫に、沙和は目尻を拭った。
「たぶん、なち……」
「何だ」
「……うん、」
情事の後のまったりした時間、ゴロゴロとベッド上で二人でくっ付いているのが沙和は何とも言えず、好きだ。そんな時。
虫の知らせ──何となく感じる、双子の兄の存在。
普段はこんな事、ないのに。
自分のことはいつもケロッと後回しにして涙を見せないのに。それが──
「泣いて、る。たぶん、なち」
ポロポロと溢れると同時に胸の苦しさ。
後ろから抱えられるあたたかさに陶然と酔いながら、沙和は恋人に疑問を投げかけた。
「ねぇ、何で堀ちゃん先輩じゃ、いけないの?」
「……」
ねぇ? と再び仰ぐ先には渋面が。
「オレも奈智もいつまでも多聴兄ぃの『守ってあげたい、かわいい弟』だけじゃ、ないよ?オレも多聴兄ぃのこと助けるのは難しいかもしれないけど、少しでも力になりたいと思うし。奈智も成長するよ?」
真っ直ぐ手を伸ばし、その頬に触れる。
切れ長の双眸が細められ、伸ばした手を包まれる。
「…………呼んでやがった、な」
長い溜め息のあと、仕方無さそうに口を開いた恋人の台詞の続きを沙和はじっと待った。
声がして、覗いた部屋。
うなされつつ弟の口から出たのは。
「あの男の名前──何だ」
クスリと笑った沙和に多聴は更に眉間に皺を寄せた。
「んーん。なーんでもなーいー」
ただ心配性なだけだった。規模はデカイが。
自分の先輩と自分の片割れが出会った桜の時期から、この八つ離れた恋人は彼らの動向を窺っていたのである。
奈智に害が無いか、足立家の次男が泣く事になる事態に陥らないよう、心を砕いて見守っていた。
そして恋人の出した結果は、奈智を守れるほどの力も権力もある人間を探す事。──自分では限りがあるから。だから、彼なりの最善策を模索した。その結果が募集として奈智に知られてしまったが、恋人はそれを撤回する気はないらしい。
ただ、心配なだけなのだ。
大元はソコなだけ。
沙和は愛おしい男を抱きしめ返した。
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