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38 微睡み

 ──あったかい。  程よい温度に奈智は夢うつつで擦り寄った。  自分以外の匂いに包まれる。  再び襲い来る眠気の波に抗えず、手放した意識はまどろみの中を漂った。 「…………ん?」  しばらくして己が引っ付いた物体に違和感を覚え、呆けた眼で何者かの鎖骨あたりを確認して、視線を上げれば奈智は飛び上がらんばかりに驚いた。  ──っほ、堀ちゃん先輩っ!?  ナゼ?!  疑問符を頭中に貼り付けた奈智は、気持ち良さそうに寝息を立てている相手を凝視した。  確か、昨日はあまりにも黒い己の非日常に気付き、唖然とした所に何故かピアスを送られ、話をしていてもう遅いからと……それから? 「……どうしたっけ?」  覚えてない。  相手を起さないように潜めた声に、働かない脳は自分自身の疑問に対する答えを持っていなかった。  取りあえず、離れよう。  起した体を強い力で引き寄せられ、奈智は大声を上げそうになった。 「んー……? まだ早いだろ。もっと寝てろ」  枕もとの目覚まし時計を確認して大きな欠伸をする彼に、慌てて声を掛ける。 「っあ、あの、」 「トイレか?」 「違いますけど……」 「じゃあ、寝てろ」  子供をあやす様にポンポンと頭を撫でられ、薄っすらと眼を開いていた彼は再び夢の世界へ旅立った。  ……どうしよ。  他人の規則正しい寝息と鼓動に、意味もなく火照る顔。  身の置き所が無く、しばらく視線を彷徨わす。 「ぁ……ヒゲ?」  ふと目に付いた相手の顎に興味を覚えて手を伸ばす。  ザラザラする。  成長しきっていない所為か、どうも体毛の薄いらしい自分には無い変化を見つけて不思議に思う。 「っわ!?」  更に抱きしめられ、身動きが取れなくなった。  寝ろという事だろうか。  ぬくもりにそそのかされる様に、観念した奈智は眼を閉じた。 寝息を立てはじめた自分に溜め息まじりに頬を撫でる指先があることを、奈智は知らない。

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