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お正月2

 いつ来ても賑やかだ。  寒さに震える身体をコタツで温めつつ、奈智(なち)は折原家の部屋を見回した。 「奈智、大丈夫?」 「あ、うん。ありがと、真咲(まさき)」  友人から熱いココアを受け取り、微笑んだ。  ──癒される。  癒し系の友人のすぐ向こうには、いつぞやの嵐の様な一年生。怖い顔でこちらを窺っているが、気にしない。日常茶飯事。友人の首にその長い腕を絡めているが、気にしない。日常茶飯事。  あぁぁ……。  心の涙を流した奈智はココアに口を付ける振りをしつつ、人知れずコップに縋りついた。 どこかでも見たような光景なのは、己の幻覚か。 「和史(かずふみ)、寒いなら俺よりストーブの方があったかいよ?」 「ヤダ」  その絡まっている友人と後輩の向かいには蓮見(はすみ)。ため息を吐きつつ、手に持っているミカンを後輩に投げつける。見事命中。 「あんた、見込みがないからって、絡まるのはよしなさい、見苦しいわよ」 「生憎、オバサンに小言を垂らされる筋合い無い」  後輩の威嚇(いかく)をさらりとかわす蓮見の横、行儀悪く頬杖をつく美女・ユキは激怒した。 「っなんっですって!? 熟女の『じゅ』の字も知らない、お子様に用はないわよ!」 「年寄より、若い方が断然いいよねー、まさきー!」 「ぇ、……俺?」 「はぁ?! 人の話も聞きゃしないガキがナニ言うのよっ!」  言い合いを始めた後輩と美女を眺めつつ、奈智は無言でココアを啜った。  ユキと名乗っている美女は元は由紀(よしのり)という、れっきとした彼だった。現在は真咲の良き姉的な存在だ。  どう収集つけたものかと、丁度自分の背後にあるキッチンテーブルを窺えば、真咲の母・風渡(かざと)が同居人と難しい顔をして煙草を吹かせていた。その下では巨大なシェパードが寝そべっている。  ──どうしたんだろ? 「どう思う?」 「うぅーん……そうですねぇ…………私は意外と啓吾(けいご)君が有力だと」  蓮見? 「そうか? 押せば簡単に折れるぞ?」 「一筋縄でいかないのが、恋では? あなたもそうでしょ?」 「忘れたな。取りあえず、成田(なりた)。こんなもんか」  後輩君?  煙草を二箱積み上げた風渡。その向かいで同居人が同じようにする。  ──もし、や……? 思いついたことに唖然とした奈智を顧みて、年齢不詳な友人の母親は魅惑的に口角を上げた。 「なんだ、奈智。お前も一枚噛むか?」 彼らは息子の貞操をダシに賭け事をしていた。

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