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お正月3
奈智は泣きたくなった。
いや、実際に涙していた。正月早々夫婦水入らずで初詣に出掛けた両親は翌日の今日、母の実家へ新年のあいさつに向かったのである。別に一緒に行きたかったのではない。久しぶりに従兄弟達と会うのもいいだろうが。
置いていかれた奈智は喘ぎ声の漏れる背後をあえて無視した。
年初めに何という幸先の悪さ。
続く不幸に、今年も運の無さを実感する。今、おみくじを引いたら間違いなく凶を当てる自信がある。
前日に引き続き、奈智は凍える己の身体を抱きしめた。
雪の中、マッチを売ろうと客に声を掛け続けた少女の話が蘇る。そう、彼女は大晦日に、己は正月に……。
仲間が居て良かったと、ここは喜ぶ所であろうか?再び身体を襲う木枯らしに肩を竦める。取りあえず購入したホットココアを両手で包み込み、暖(だん)を取る。
友人宅への連日の訪問は控えたい。たぶん賑やかな彼らはそれほど気にしないのかもしれないが。
「……やっぱり、無いんだ」
呟いた独り言は寂しく寒空に響く。腰掛けたベンチからジンワリと冷たさと共に広がる孤独。
「何が無いの?」
急に掛けられた声に奈智は飛び上がらんばかりに驚いた。ついでに手に持っていたペットボトルも取り落とし、相手に見事にキャッチされる。
「っあ、りがとうございます……」
「どういたしまして」
にっこりと極上の微笑を向けられて、奈智は無意識に顎を引いた。
「……どうしたんですか。木戸さん」
「一緒にランチでもどうかと思って」
「遠慮します」
「つれないねぇ」
当たり前だ。
以前引き摺られて連れて行かされそうになったレストランは、正装しないと入れないような超高級な所だった。生憎と自分は己の身分は弁(わきま)えているつもりである。
「この僕の誘いを断る、キミのそんな所もそそられるんだけどね」
類は友を呼ぶ。さすが我が長兄の知り合い。
「はい」
「……何でしょう?」
手渡された物に嫌な予感しかしない。
「お年玉」
明らかに違う。
奈智の知識としては小銭だろうが札だろうが、ポチ袋はほぼ平面のハズだ。
だがしかし、これは立体。
己が欲しているのは飲みかけのペットボトルのココア、ただそれだけ。
「お返しします」
「子どもはおとなしく貰うものだよ」
「……中身は何でしょう?」
「いくらでも使いたいだけ使ってもいいカードと、マンションのカードキー、僕の会社の社長室のカードキー」
呆然とした奈智は本年の己の運命を呪った。
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