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お正月4
年明けから毎日ご苦労な事だと、奈智はもはや出尽くしたと思っていた溜め息を吐き出した。世ではしあわせが逃げるとされているが、己の今年分のストックは一体いくつあるのだろう。たぶん、正月三箇日の本日で既にマイナスであろう。新年早々に思い知らされる、運の無さを改めて噛み締める。
年明けバーゲンに繰り出した両親は、例に漏れず不在。実は、長兄と双子弟の仲を知っての外出ではなかろうかと疑いつつ、それは無いだろうと首を振って己の思考の暴走を諌(いさ)める。
背後で上がる嬌声に再び頭痛を覚えて、縋りつくは自宅の柱。
ありがとう、友よ。
……子作りでも励むのだろうか。
別の意味で寝正月、バンザイだ。
自分でもブッ飛んでいるとは認識していても、思わずにはいられない兄弟の連日の絡まりに、自給自足セルフで負うのは特大の自己嫌悪。
侵(おか)されている、確実に。
──……これ以上、ココに居てはいけない。
己の壊れ具合を実感した奈智はココロの涙を流しつつ、一人寒空の下自宅から抜け出した。
「……一体」
見渡す限りかわいい女の子に囲まれ、顔を引き攣らせた奈智は呟いた。
「どうした、奈智。景気悪いな」
どこぞのハーレムだと思わずにはいられない豪華な面々をはべらせ、学校で年末に別れたはずの生徒副会長が自分の顎を捕らえる。
流離(さすら)っていた奈智はやはり公園に落ち着き、前日同様ぽかぽかと日向ぼっこに勤しんでいた。そこに声を掛けたのが、目の前の彼女。背後では「やーん」「あん」などと黄色い声が聞こえる気がするが、幻聴なハズ。天下のお天道様の前でナニが始まるというのだ。
兄と弟の睦言から逃れて来たのに、何て仕打ち。
特大な溜め息をついて肩を落とせば頬を撫でられる。
「元気ないな。奈智も一緒に初詣行くか?」
「……いってらっしゃい」
「気にしなくてもこの子猫ちゃん達の中に入っても、全然浮いてないぞ」
脱力した奈智はキッパリと言い切られて、ついに地面に沈んだ。
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